- 2025-1-24
- 化学・素材系, 技術ニュース
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理化学研究所(理研)生命機能科学研究センターは2025年1月23日、広島大学と共同で、魚肉の鮮度評価に非線形光散乱現象を応用し、マグロが熟成する過程で筋肉分解の進み具合を定量化する新技術を発表した。レーザー光を魚肉に直接触れずに当て、非接触で歯応えなどの食感(粘性や弾性)を評価できる。
研究チームは今回、解凍後のマグロの切り身の熟成過程における筋肉分解を、非線形光学現象の一つである光第二高調波発生(SHG)を応用した偏光顕微鏡を用いて定量化した。研究では、入手した新鮮な冷凍キハダマグロのさくを凍結状態のまま8つのブロックにカットし、飲食店で提供されるマグロと同じ手順で解凍した後に、4℃条件下に静置(チルド冷蔵)した。その後、0、12、24、48、72時間でサンプリングした。
ブロックからさらに切り出した小さな切り身に対して、さまざまな偏光角度でレーザー光を照射した。照射光は切り身内の筋肉分子と相互作用して散乱光になり、この散乱光から非線形成分であるSHG光を抽出する。
最初に、筋繊維構造の時間変化を評価するため、すべての偏光角度でのSHG光を足し合わせた信号強度での画像を比較した。その結果、筋肉分解は3段階で起こり、第2段階に安定期が存在していることがSHG光強度の解析から示唆された。
次に、偏光依存性についての解析を実施した。その結果、解凍後12時間までは変化がなく、12時間後から24時間後にかけて増加し、その後、大きく変化していないことがわかった。筋繊維の分解が12時間後から24時間後にかけて進み、コラーゲンの含有比率が増加したと考えられる。解凍後72時間には、筋繊維がほぼなくなっている切り身が増えている。
これらの結果から、マグロ切り身の熟成過程には、3段階の筋肉分解プロセスが存在すると考えられる。解凍後12時間までが1段階目で、タンパク質の分解が筋肉全体で始まるが、筋肉の構造はそれほど変化しない。2段階目の12時間でサルコメア構造が急速に分解していくが、24時間後から48時間後までいったん安定期に入る。そして3段階目の48時間後から72時間後までの間に、筋肉分解が徐々に再開し、やがてコラーゲン繊維を主とする組織となる。
プリプリとした弾力のある食感が好みの場合には、筋肉構造の変化が少ない段階である1段階目の解凍後12時間内が食べごろとなる。2段階目は、イノシン酸が産生されており、かつ、筋肉分解も安定しており、柔らかい歯応えとうま味を安定して感じられる食べごろだといえる。
3段階目は、筋肉分解が進みコラーゲンの食感を強く感じる。いわゆる「筋張った食感」で、食べごろを過ぎているが、イノシン酸の産生量が飽和する時間帯でもあり、解凍後の時間を正確に制御できるのであれば、解けるような食感と強いうま味を感じられる「最もおいしい」食べごろだといえるかもしれない。
食用魚は、低温下で一定時間寝かせて熟成することで、イノシン酸などのうま味成分が増す。これらのうま味成分を計測する方法は多々存在するが、鮮魚のおいしさはうま味成分のみで決まらず、歯応えなどの食感も重要な要素となっている。
魚肉は主に筋肉で構成されているため、食感には活け締め後の時間経過に伴う筋肉の分解が大きく影響しているが、その評価には検査器を物理的に接触させる必要があり、非接触評価は難しいとされていた。
今回、解凍後72時間までに少なくとも3つの筋肉分解プロセスが存在することを発見した。これは、鮮魚の低温保管下における筋肉分解を非接触、非侵襲で直接評価した初めての実験例となる。今回開発した手法は、適用する魚種を選ばないことに加え、微視的な構造変化に基づいて評価でき、鮮魚の安全検査や冷蔵保管時の品質検査の基盤技術になり得ると期待される。