- 2025-1-29
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- ICF燃焼プラズマ, LAPINS, Science Bulletin, クリーンエネルギー, マクスウェル分布, ローレンス・リバモア国立研究所, 三重水素(T), 上海交通大学, 中国科学院物理研究所, 中性子スペクトルモーメント解析, 国立点火施設(NIF), 学術, 慣性閉じ込め核融合(ICF:Inertial Confinement Fusion), 核融合エネルギー, 核融合衝突モデル, 超熱イオン, 重水素(D)
中国科学院物理研究所と上海交通大学の共同研究チームは、慣性閉じ込め核融合(ICF:Inertial Confinement Fusion)の実験で観測された新しい物理現象を、新開発の核融合衝突モデルに基づいたシミュレーションで解明した。ICF燃焼プラズマにおいてマクスウェル分布に基づかない超熱イオンが存在するという現象について、これまでは説明ができなかった。
核融合エネルギーが注目を集めている中、とりわけICFの進歩によって、制御された核融合から膨大なクリーンエネルギーを生み出すことがますます現実味を帯びてきている。
ICFでは、重水素(D)と三重水素(T)から成るDT燃料にレーザーなどを当て、爆縮過程で燃料が圧縮されて極度の高温に達すると核融合反応を引き起こして点火する。このDT核融合反応では、発電のためにエネルギーの大部分を中性子が持ち去るが、アルファ粒子は燃料内に蓄積しさらなる核融合反応が始まる。アルファ粒子の蓄積エネルギーが、爆縮によって得られる量を上回ると、プラズマが燃焼プロセスを開始してエネルギー密度が大幅に増加する。
2021年2月に米ローレンス・リバモア国立研究所の国立点火施設(NIF)は、ICF燃焼プラズマ状態を作り出すことに成功したが、その極限状態の中で新しい物理現象が観測された。中性子スペクトルデータが流体力学的予測から大きく逸脱し、超熱DTイオンの出現を示した観測結果は、マクスウェル分布に依拠する既存のモデルに疑問を投げかけるものであり、これまで見過ごされてきた動力学的効果と非平衡メカニズムの重要性を明白にしている。
しかし、動力学的効果の中でも特に、大きなエネルギー交換を伴う大角度衝突を正確にモデル化することはかなり難しい。この衝突はアルファ粒子の蓄積中に超熱イオンを発生させ、平衡状態からの逸脱を引き起こして流体力学的記述の範囲外となるからだ。
この課題に対処するため、研究チームは、背景イオンの遮蔽ポテンシャルをイオンの2体衝突時の相対運動と統合する大角度衝突モデルを提案した。研究チームは、イオンの動力学を包括的にとらえられるこのモデルを組み込んで、ハイブリッドなセル内粒子(PIC)法で使う「LAPINS」というコードを新たに開発し、ICF燃焼プラズマの高精度シミュレーションを可能にした。
大角度衝突の結果を広範囲かつ動力学的に調べた結果、点火が約10ピコ秒(10兆分の1秒)早まること、エネルギーしきい値が34keV(キロ電子ボルト)未満の状態で超熱Dイオンが存在すること、ピーク時のアルファ粒子密度が予想値の約2倍に達すること、ホットスポットの中心でのアルファ粒子密度が最大24%増加することなど、重要な知見を得られた。
動力学シミュレーションが、NIFで実施された中性子スペクトルモーメント解析と一致したことから、今回の発見は合理的であることが確認された。どちらも、中性子スペクトルモーメント解析と流体力学予測との差異を浮き彫りにしており、その差異は収量が増加するにつれてさらに顕著になる。
また、大角度衝突のシミュレーションでは、イオンは1回の衝突でかなりの量のエネルギーを交換してマクスウェル分布に反した超熱イオンになるのに対し、小角度衝突のイオンは複数回の衝突で連続してエネルギーを失い、平衡分布またはマクスウェル分布になる。
この研究は点火スキームの設計と改良の指針を与え、また、核燃焼プラズマを探求する新しい研究機会を開くものだという。非常に高いエネルギー密度が特徴の核燃料プラズマは、初期宇宙の進化を支える複雑な物理学を解明する計り知れない可能性を秘めている。
この研究は2024年12月4日付で『Science Bulletin』に掲載された。