物質・材料研究機構(NIMS)は2020年11月13日、ダイヤモンドを使って、500℃の高温でも低消費電力で安定に動作する高感度な磁気センサーの開発に成功したと発表した。
既存の高温磁気センサーは、主にコイルセンサー、フラックスゲートセンサー、Hallセンサーがあるが、サイズや消費電力が大きく低感度といった課題が残っている。一方でMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)センサーは、他のセンサーと比較して、小型、高感度、低消費電力、マルチセンシング機能を持つ利点があり、今後の有力デバイスと見られている。
これまでにMEMSは、主にシリコンや金属材料を用いて作製されており、機械的、電気的、化学的、熱的な安定性が悪く、さらなる高性能化/高信頼性化は困難だった。しかし、ダイヤモンドは5.5eVの広いバンドギャップを持ち、物質中で最高の機械性能や最大の熱伝導率/耐熱性などの優れた物性を持つため、究極のMEMS材料として注目され、通常環境から極限環境まで広く利用が期待されている。
研究者らは、2010年から単結晶ダイヤモンド基板上にダイヤモンド薄膜を成長させたダイヤモンド-オン-ダイヤモンド(全単結晶ダイヤモンド)を基本概念とし、形状と寸法制御可能な単結晶ダイヤモンドMEMS機械共振子の作製プロセスを開発してきた。2014年には、ダイヤモンド機械共振子のQ値を決めるエネルギー散逸機構を解明し、さらにダイヤモンド表面を原子スケールでエッチングする技術を開発。Q値が100万以上のダイヤモンドカンチレバーを作製した。
今回、研究者らは、ダイヤモンド深部欠陥の影響を調べ、ダイヤモンドMEMSは少なくとも700℃で高い安定性を持っていることが判明した。さらに、ダイヤモンド固有の深い欠陥エネルギー準位と機械的特性の相関について検討し、MEMS共振子としてのダイヤモンドの優位性を明確に示した。これらの成果を踏まえて、高いキュリー温度(>600℃)を持つ磁歪材料Fe81Ga19膜とダイヤモンドの接合形成により、高温でも動作できるダイヤモンドMEMS磁気センサーを開発した。
ダイヤモンドMEMS磁気センサーの動作原理は次の通りだ。ダイヤモンドMEMS共振子に堆積された磁歪材料FeGaが、外部磁場の変化によって、ダイヤモンドカンチレバーに応力を発生させ、この応力によってMEMS共振子の共振周波数のシフトを誘発する。応力が圧縮性である場合、共振周波数は低下し、引張りである場合、共振周波数は増加する。
FeGa、Ti、ダイヤモンドカンチレバーの磁気感知動作を室温から500℃まで、外部磁場の変化を与えて測定したところ、外部磁場を印加すると共振周波数が低下することが分かった。磁場が高いほど、共振周波数のシフトは大きくなることも示された。ダイヤモンドMEMS磁気センサーの感度(Hz/mT)はカンチレバーの形状によって異なり、低い磁場範囲(<5mT)では18-36Hz/mTだった。測定温度が上昇すると、磁気感度は増え、500℃で約75Hz/mTに達した。なお、磁気感度は温度によって可逆的だった。
本研究成果は、内燃機関、石油、 鉱物探索、原子炉の材質劣化診断、宇宙利用などの磁気センシングの実現につながることが期待できる。NIMSは、今後、センサーの感度、信頼性、寿命、速度などの機能が最適化されるよう、集積化センサーチップを開発していくとしている。