生体骨に近い特性を持つ新規のCoCr系生体用金属材料を開発 東北大学ら

東北大学大学院工学研究科の許皛助教らの研究グループは2022年5月19日、同大金属材料研究所、日本原子力研究開発機構、J‐PARCセンター、チェコ科学アカデミーと共同で、骨との高い力学的親和性と耐摩耗性を両立させた新規のコバルトクロム(CoCr)系生体用金属材料を開発したと発表した。超弾性特性を有しており、多機能性生体用金属材料として期待される。

研究では、新たにCo-Cr-Al-Si合金を開発。主成分はコバルト(58~59質量%、以下同様)とクロム(33~34%)で、アルミニウムとシリコン(合計8%)を添加している。開発したCoCr合金は、既存の面心立方構造であるCoCr合金に対し、体心立方構造を有しており、極めて高い弾性異方性示すため、<100>方向を有する単結晶を用いて、10~30GPaという生体骨と同様の極めて低いヤング率を達成した。

一般的な生体用金属材料のヤング率と耐摩耗性は、トレードオフの関係にあるが、開発したCoCr合金は、既存CoCr合金に匹敵する高い耐摩耗性を有しながら、ヤング率が極めて低い。1.65%の大きな変形に対し、1000万回以上の疲労寿命を示しながら、低いヤング率も維持されるため、次世代生体用金属材料として期待できる。

a.従来の生体用金属材料におけるヤング率と耐摩耗性の関係と本CoCr合金の位置付け、b.1.65%ひずみにおける1000万回疲労試験前後の力学的特性

ニッケルチタン(NiTi)超弾性合金は約8%の超弾性ひずみを示すが、開発したCoCr合金はその2倍以上となる17%の大きい超弾性ひずみを示すため、多機能性生体材料としての応用も期待できる。

a.本CoCr合金における超弾性特性、b.従来の生体用金属材料における回
復ひずみと耐食性の関係と本CoCr合金の位置付け

超高齢社会の進行に伴い、骨や関節の疾患治療のためのインプラントと呼ばれる生体材料の需要が高まっている。金属材料は強度、延性のバランスが優れ、力学的信頼性も高いため、骨機能代替インプラントとして幅広く応用されている

インプラントには優れた耐摩耗性と耐食性が要求されるが、一般的に、しなやかな生体骨とは力学的特性が大きく異なっている。特にヤング率が高いことが問題となるため、生体骨と同等の低いヤング率を持つ新規金属材料の開発が求められている。

しかし、生体骨とヤング率が同程度で、優れた耐摩耗性と耐食性を両立する金属材料はほとんどない。特に低ヤング率は、一般に高い耐摩耗性とトレードオフの関係にあるため、これらの特性を両立させた新規合金の開発は困難だった。

最先端医療で使用される超弾性合金の中では、約8%の超弾性ひずみを示すNiTi合金が最も使用されている。しかし、ニッケル(Ni)を原因とするアレルギー反応を引き起こす懸念があり、Niを含まないチタン(Ti)系超弾性合金が開発されてきたが、NiTi合金の半分程度の超弾性ひずみに留まっている。

今回の研究により、低いヤング率、高い耐食性、高い耐摩耗性、優れた超弾性特性の4拍子そろったCoCr系生体材料を初めて実現した。人工関節、ボーンプレート、歯科インプラント、脊髄固定器具、ステント、ガイドワイヤーなどへの応用が考えられる。

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