放射性中性子を排出しないクリーンな核融合――コンパクトで高効率な水素-ボロン核融合炉を計画

第六世代実験炉「Copernicus」

アメリカの核融合炉開発企業TAE Technologiesは2022年7月19日、第五世代実験炉「Norman」において、目標の250%に達する7500万℃以上のプラズマ温度を安定的に維持することに成功した。そして次なる計画として放射性物質を発生させない水素-ボロン燃料を用い、逆転磁場配位型設計によりプラズマ温度の引上げを図る第六世代実験炉「Copernicus」を建設することを発表した。長年のパートナーであるGoogleに加え、新たにChevron、住友商事などから2億5000万ドルに上る研究投資を受け、今後10年以内に安全かつカーボンフリー、経済性のある核融合炉を実用化する目標を掲げる。

核融合反応は、水素などの軽い原子核同士の融合によって膨大なエネルギーを発生する原子核反応だ。これを利用した発電はCO2を排出せず、燃料投入や電源が止まれば反応も止まるため、原理的に暴走が起こらない。こうした点で核分裂を利用する原子力発電よりも安全という見方もある。発電を目的とした核融合炉については、20世紀半ば以降、世界各国で個別に研究開発が進められてきた。1980年代後半に日本を含めた国際プロジェクトとしてITER( 国際熱核融合実験炉)が発足し、2025年の運転開始を目指している。核融合エネルギーを実用規模の発電に利用するには、極めて高温のプラズマを長時間閉じ込める必要がある。ITERを補完する日本独自のプロジェクトである実証装置JT-60においては、ITERで必要とされるプラズマの閉じ込め条件を28秒間維持することに成功している。

一方で、Lockheed Martinの高ベータ核融合炉計画など、小型の実用炉開発を目指す民間企業の研究開発も活発になっている。TAE Technologiesもその一つで、1998年に創立後、クリーンで安全な核融合発電を目的として総額12億ドルの資金を調達。他の核融合反応とは異なり放射性中性子を排出しない水素-ボロンの核融合や、小型で高効率の高ベータ核融合が可能な逆転磁場配位設計などのユニークな研究を実施してきた。

コンパクトな設計の第五世代実験炉Normanにおいて、7500万℃以上の温度でプラズマを安定的に維持することに成功するとともに、Googleと共同でAIやマシンラーニングを活用した核融合炉のリアルタイム最適化操業技術も構築している。このほど、Googleに加えてChevron、更にアジア太平洋市場でクリーンエネルギー技術の展開を目指す住友商事などから研究投資を受け、第六世代実験炉Copernicusの建設に着手した。

Copernicusでは、放射性中性子を排出せず環境的に無害な水素-ボロンの核融合を利用するとともに、小型高効率化が可能な逆転磁場配位設計を導入することにより、1億℃を超えるプラズマ温度を実現し、中性子排出がなく安全でカーボンフリーの環境に優しい高効率のコンパクトな実用炉開発を目指す。最終的に、10年以内にコスト競争力のある核融合炉を実用化する目標を掲げる。

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