電気通信大と早大、深層学習により微細流路の高精度な沸騰熱伝達予測モデルを構築

流路が小さくなると表面張力の影響が大きくなり、大径管と比べ、弾丸状の気体(蒸気)が管内側に沿って滑らかに流動し、液体との境目は球形に近い形をしている

電気通信大学と早稲田大学による研究グループは2017年12月18日、既存の論文実験データベースを用いて人工知能の深層学習機能を活用することより、機構論的手法とほぼ同精度で予測可能な、微細流路の沸騰熱伝達率の予測モデルを構築したと発表した。物性が異なる多種多様な冷媒にも適用できる技術で、これまで時間を要していた熱交換器の最適設計の期間を短縮できる。

エネルギーを伝える媒体が沸騰、蒸発、凝縮などの相変化を伴う場合、伴わない場合よりもエネルギー(熱)の輸送能力は2〜3桁程度向上する。この相変化現象を利用を利用して多くの機器が冷却や加熱を効率良く行っている。近年はさらに効率の良い熱輸送のため、冷媒を流す伝熱管の内径を1〜4mmと小さくした微細流路を用いた熱交換器が採用されている。

しかし、伝熱管内は気相と液相が混在することに加え、内径が小さくなると冷媒の表面張力の効果が大きくなるため、微細流路での相変化熱伝達を正確に予測することは難しい。電気通信大学の研究グループでは、数多くの実験データから物理メカニズムを明らかにした上で、機構論的手法による高精度な相変化熱伝達率(沸騰熱伝達率側)の予測式を提案していた。しかし、この手法による開発には長い時間と大きな労力が必要だった。

今回の研究では、熱伝達率のデータを一定数集めれば、ビッグデータとみなせる情報量が得られ、人工知能(AI)の深層学習機能が使用できるのではないかと予想し、検証を行った。12研究者から取得された1094件の水平流の円形微細流路内沸騰熱伝達の実験データをデータベースとして使用。深層学習は入力層、出力層および中間層3層で構成され、入力層には実験条件として5条件、物性値として16条件の属性値を合せた合計21個の値を入力し、出力層から熱伝達率のみを出力した。

この予測モデルによる結果を既存の整理式による予測と比較したところ、非常に高い予測精度を示すことがわかった。熱伝達メカニズムを解明して作成した整理式と同様の予測精度をもつ予測モデルを、AIの深層学習機能を用いて得られることが実証された。

多量な実験データを基に深層学習機能を用いて予測モデルを構築することができれば、数日程度で相変化熱伝達率の高精度予測が可能になる。そのため、幅広い物性値を持っている各種冷媒およびその流動方向によらず、深層学習の適用が可能となり、ヒートポンプなどの熱交換器の最適設計にかかる時間が大きく短縮される。

現在、同研究グループでは、さらに各種の物理的知識をAIに組み込むことで、伝熱管の流路形状や流路径、冷媒やその流動方向に限定されずに、説得性を高めた正確な熱伝達率を出力するAIの研究開発に取り組むとともに、深層学習機能を用いた新たな物理メカニズムの解明を試みているという。

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