日本の製造業を成長させた「QC7つ道具」

本記事は製造業の課題解決と業務生産性の改善を支援するWebサイト「ものづくりドットコム」を運営する産業革新研究所の代表取締役熊坂治氏が、製造業の技術者向けに効果的な設計、開発プロセスについて解説する連載記事です。

第1回目では新しいものづくりプロセスの必要性、第2回目ではものづくりプロセスの歴史と新プロセスの導入について取り上げました。第3回目の今回は、品質改善にかかせない手法についてご紹介します。

QC7つ道具とは

ものづくりで使われている手法、ツールと聞いて、多くの方が「QC(品質管理)7つ道具」を思い浮かべるでしょう。若い人は信じられないかもしれませんが、第二次世界大戦直後の日本製品の品質はひどいもので、当時Made in Japanは低品質の代名詞でした。これを何とかしようと、当時の日本科学技術連盟はアメリカの統計学者を日本に招聘します。その時代の第一人者はウォルター・A・シューハートでしたが、怪我のために来日は実現せず、1950年にW・エドワーズ・デミングが、1954年にジョセフ・M・ジュランが来日し、各種統計手法や、品質経営の考えを全国に指導しました。そうやって生まれたQCサークル活動を通じて、1960年代末頃から統計ツールを分かりやすく解説するテキストが整理されました。QC7つ道具は、いつだれがそう呼んだか明らかでありませんが、誰でも簡単に理解できるように、弁慶の7つ道具になぞらえて命名されたようです。

7つ道具の内訳は、パレート図、特性要因図、グラフ、チェックシート、ヒストグラム、散布図、管理図、層別の8つです。本によって層別が抜けたり、グラフと管理図が合わされたりして、語呂良く7つ道具と呼ぶのです。日本人は末広がりの8(八)も好んで使いますが、こと「道具」に関しては7にこだわります。

日本科学技術連盟はその後、1980年代に「新QC7つ道具」、90年代に「商品企画7つ道具」を提起しています。

QC7つ道具の概要

8つの道具の中で次の(1)~(6)まではデータの集計、分析に使われます。
(1)パレート図: 不良や故障などを原因や現象別に多い順に並べて、対策の優先順位決定に使います。
(2)グラフ: データを図示して、状況を分かりやすくします。
(3)ヒストグラム: データの範囲を10区間ほどに分けて、各区間の度数を棒グラフにして分布の状態を示します。
(4)散布図: 二組の特性を縦軸と横軸にとり、データを打点することで両特性間の関係を示します。
(5)チェックシート: 検査、測定するごとにシートにマークすることで、即時判断を可能とします。
(6)管理図: 横軸に時間やロット番号、縦軸に特性値をとった折れ線グラフですが、管理限界線が表示されており、不良が発生する前でも異常状態を発見します。

そして(7)特性要因図は、狙いとする不良などの特性に関連すると思われる要因を魚の骨状にブレークダウンしていくことで、対策への重要項目の漏れを防ぎます。

(8)層別は、ヒストグラムや散布図でデータを分析する際に、違う傾向を示すグループごとに分割する考え方で、「手法」とはやや趣が違います。

QC7つ道具の現状

2012年、私が技術経営(MOT)を学べる大学院在学中に、学生と社会人を対象に実施した各種手法の認知/利用/有効度の調査では、40歳以上がQC7つ道具を100%知っていたのに対して、40歳未満では認知率は67%でした。活用度でも他の手法と比べて高齢者に対して若い人たちが低い傾向が見られました。

これをもって若い世代が知らない、使っていないと嘆くのは指摘にあたらず、最近はそれと意識することなく使っているのではないかと私は思っています。PCが普及していなかった30年前は、ヒストグラムや散布図を描くのにも研修を受けて習熟する必要がありました。今ではエクセルのワークシートにデータを入力し、散布図であれば該当範囲を選択して「グラフ-散布図」で、ヒストグラムであれば「データ分析-ヒストグラム」コマンドを使うことで描けてしまいます。

「さあQC7つ道具を使うぞ!」という気合も覚悟も、今や不要です。重回帰分析や分散分析といった、当時は相当のエキスパートしか使えなかった手法ですら、今や初心者でもエクセルを使用すればクリック数回で簡単にできます。設計者は、これらのオペレーションが容易になった今、CAEやAIなど幅広い知識が必要とされる高度な分析技術をどのような目的で使用するかが重要になります。

QC7つ道具のこれから

私が前職で試作課長だった時に、課員教育としてQC7つ道具を扱おうとしたところ「そんなのはみんな知っていますよ」と反対されました。ところが、みんな使っているかというとそうでもなかったのです。知っていても使わなければ効果は出ません。

折角簡単に使えるようになったのですから、日々の現場でチェックシートや管理図で不良の未然防止、不良が発生したらヒストグラム、パレート図、散布図で分析し、特性要因図を使って対策案をしっかり検討しましょう。

関連リンク

ものづくりドットコム


ライタープロフィール

熊坂治

1979年東北大学工学部を卒業後、中堅メーカーで30年にわたり基礎研究、製品開発/設計、生産技術、製造技術、品質技術、事業企画など広い業務を経験したのち2009年コンサルタントとして独立。2011年に株式会社産業革新研究所を設立し、翌年から製造業向け情報発信Webサイト「ものづくりドットコム」を公開。山梨学院大学現代ビジネス学部客員教授(技術経営論)、技術士(経営工学部門、総合技術監理部門)、技術経営修士(専門職)、工学博士(東京工業大学)。


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