沖縄科学技術大学院大学(OIST)は2019年2月12日、マイクロ波が電子の動きを阻害することを実証したと発表した。同研究は、正確に制御された電子の集団を用いて演算する量子コンピュータの技術向上につながる可能性があるという。
通常のコンピューターは0と1の2進法で稼働する。この2進コードのため、コンピューターが処理する情報の量と種類は制限されている。一方、素粒子は2つ以上の異なった状態で存在できるため、量子コンピューターは電子を用いて複雑なデータを処理し、超高速で計算できる。現在、電子を0と1のどちらもとれる状態に保ち続ける方法を探るために、電子の振る舞いを変化させる力についての研究がなされている。
今回、OISTの研究グループは電子を低温真空容器に閉じ込め、マイクロ波を照射した。その結果、容器内の粒子と光が相互に作用して、エネルギーの交換が起こった。この実験により、量子情報の保存にこの密閉された容器が使用できる可能性が示された。
高速で振動する電場と磁場からなる光は、電荷をもった物質を押す性質がある。光が衝突した電子と同じ振動数で振動する場合、その光と粒子は互いのエネルギーと情報を交換。この状態では、光の動きと電子は「結合」している。
このエネルギー交換が、環境内で起こる他の光と物質の相互作用よりも速く起こると、その光と電子の動きは「強結合」する。研究グループは、マイクロ波を使って、光で粒子を量子力学的に制御するのに重要な「強結合」状態を作ることに取り組んだ。
結合状態の観測では、電子が近くの物質と衝突したり、熱を発する相互作用するときに発生する「シグナルノイズ」を分離する必要がある。従来、マイクロ波が電子に及ぼす影響の観測は、電子の動きを1つの面に閉じ込める半導体界面上で行われていた。しかし、半導体は電子の動きを阻害する不純物を含んでいる。
そこで研究グループは、マイクロ波を反射する2枚の金属製の鏡を取り付けた低温真空容器の中で電子を孤立させる方法を採用した。密閉容器はセルと呼ばれる小さな円筒状の容器で、各容器には液体ヘリウムが入れられ、絶対零度に近い温度に保たれる。ヘリウムはこのような極低温下でも液体の状態を保つが、浮遊する不純物は凍結してセルの側面にはり付くため、分離できる。
一方、電子はヘリウムの表面に結合し、2次元シートを形成。研究グループはセルの鏡間の光を捕獲することで、シートを構成する電子をマイクロ波のような電磁放射線にさらし、マイクロ波が電子の回転に与える影響を分析した。
分析の結果、電子の速度や位置、各電子の総電荷量の変動が、強結合効果にほとんど影響を及ぼさないことを明らかにした。粒子とマイクロ波の平均的な動きが、集団として、両者間のエネルギーや情報交換を引き起こしたと考えられるという。
液体ヘリウムを使うことで電子を正確に制御できるため、通常のデータをハードドライブに保存する際と同様に、量子情報を読み、書き、処理することが可能だ。今後も研究をさらに進め、量子情報のビットである量子ビットにおける業界標準の改善を目指すという。