ムーアの法則の限界を超える次世代技術――グラフェンなどの2D材料スピントロニクスに注目

マンチェスター大学を中心とした国際共同研究チームが、グラフェンおよび他の2D材料を用い、電子の持つ磁気的な性質「スピン」の流れを制御することで、次世代の半導体を創成するスピントロニクスの可能性について、広く展望した解説論文をまとめた。電子スピンを半導体で利用することにより、超高速演算が可能な量子コンピュータや低消費電力で動作するトランジスタなど画期的なデバイスを実現できると期待される。研究論文は、2020年6月2日付で米物理学会の『Review of Modern Physics』誌に公開されている。

シリコンを中心としたこれまでの半導体は、ムーアの法則に従うように高度に微細化されて集積され、低消費電力化と高速動作、大メモリ容量を実現してきたが、微細加工の極限に近づきつつあり、性能向上の限界に直面しつつある。この限界を打破するアプローチとして、材料面ではシリコンを凌駕する電荷移動度を持つグラフェンが、また技術面では電子の持つ電荷のみならずスピンの流れを活用するスピントロニクスが注目されている。

炭素の単原子膜であるグラフェンは、スピンが緩和されにくく極性を保持できる特徴があり、グラフェン表面に蒸着した強磁性電極から電子スピンを注入し、電圧および磁場を印加することで電荷とスピンの流れを制御することができる。電荷の流れだけに依存する従来のエレクトロニクスと比較して、動作速度とメモリ容量を著しく向上し、高いエネルギー効率および低いエネルギー損失を特徴とする、次世代高速エレクトロニクスに発展する可能性が期待されている。

解説論文では特に、グラフェンと他の2D材料が正確に積層された、ファンデルワールスヘテロ構造に注目している。マンチェスター大学固体物理学科講師のIvan Vera Marun博士は、「2Dヘテロ構造におけるスピントロニクスにより、グラフェンだけでは不可能だった効果を引き出し、スピン情報の効率的な創出、輸送、検出が可能になり、将来の量子コンピュータ技術に展開できる」と語る。もう1つの興味深い研究分野として、表面と内部に3次元的な電気的および磁気的性質の分布を持った、新しいトポロジカル量子材料を挙げている。「2D材料におけるスピントロニクスは、このような特異なトポロジカル特性を見出す最適なプラットフォームになる」と、共著者のFrancisco Guinea教授は説明する。

研究チームは、「グラフェンなどの2D材料におけるスピントロニクスは、宇宙通信、高速無線回線、車両用レーダー、チップ間通信用途に向けた結合型ナノスケール発振など、将来型スピントロニクスデバイスの実証的な研究開発に向けて、着実に進化している」と、期待を見せている。

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Graphene and 2D materials could move electronics beyond ‘Moore’s Law’

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