- 2021-7-21
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今日、私たちが生活する上で欠かせない家電製品、パソコンやスマートフォンなどの情報機器、さらには自動車などの「頭脳」として必要不可欠なのが半導体です。
「半導体」という名前はよく耳にすると思いますが、実際のところ、どのような働きをしているものなのかご存知でしょうか。この記事ではそのような疑問にお答えできるよう、半導体について分かりやすく解説します。
半導体とは?
物質は電流の流れやすさ(導電率)を基準にして、電流が通しやすいものを「導体」(金属、電解液など)、通さないものを「絶縁体」(ゴム、ガラスなど)と分類されます。そして、この中間に位置する性質を持つ物質を「半導体」と呼んでいるのです。
ただ、この説明だけでは、「半導体」がコンピューターなどの製品にどのように役立つのかあまりよく分からないでしょう。実は、「半導体」は不純物を添加する度合いや、熱や電圧によって導電率が変化するのです。この変化を制御することで、電子機器に応用することができるところが「半導体」の特徴です。
そして、この物質としての「半導体」を使用して構成されるトランジスタやダイオード、それらを組み込んだIC(集積回路)も「半導体」と呼ばれるのです。
半導体の性質
導体と絶縁体の中間に位置する物質が「半導体」だと説明しましたが、ここで1度、「電流とは何か」を考えてみましょう。
電流は物質中を移動する電子の量で表されます。導体を代表する金や銅などの金属では、原子核とその周りを回っている電子との結合力が弱く、電子が原子核から離れてしまい「自由電子」になります。この自由電子は金属中を自由に移動することができて、これが電流を生み出します。
一方、ガラスやゴムなどの物質では原子核と電子の結合力が強く、自由電子はほとんどないので電流は流れません。
それでは「半導体」はどうかと言うと、代表的な物質としてシリコン(Si)が挙げられます。シリコンは本来、自由電子がかなり少なく電流はほとんど流れないのですが、リン(P)やヒ素(As)、ボロン(B、ホウ素)などを添加することにより、原子核と結合できない電子が発生します。これが自由電子となって、ある程度電流が流れるようになります。
そしてこの電流を制御することで、増幅や計算をさせることができるのです。
電気伝導の仕組み
半導体の電気伝導の仕組みについて、もうすこし詳しく説明しましょう。
シリコンの原子は14個の電子を持っています。これらの電子は結合が強く安定していて、ほとんど電流は流れません。リンなどの添加物を加える前の純粋な半導体のことを「真性半導体」と言います。
これに電子を15個持っているリン(P)を添加すると、新たにできた物質では電子が1個結合できずに余ります。これが自由電子となって電流が流れます。なお、真性半導体に微量の不純物を添加した物質を「不純物半導体」と呼びます。
このように、主に自由電子の移動により電流を流す半導体を「N型半導体」と言います。
一方、シリコンに電子を13個しか持っていないボロンを添加すると、結合できる電子が1個足りず、本来電子があるべき場所に空き地ができます。この空き地を「ホール(正孔)」と呼び、このホールが移動することにより電流を流す半導体を「P型半導体」と言います。
ただ、ホールは電子がない「場所」で概念上のものですから、実際は電子が移動することで2次的にホールの場所が移動するため、移動速度が遅くなります。N型半導体と比較するとP型半導体の導電率は低くなるのです。
今日の半導体デバイスのほとんどは、このN型、P型半導体の組み合わせで作られています。
半導体の歴史
半導体が実用化される以前、ラジオや計算機などの電子回路には、真空管が使われていました。しかし、真空管装置はとても大きく消費電力も大きいものでした。
1947年末に、アメリカのAT&Tベル研究所が世界で初めてゲルマニウムを使った点接触型トランジスタを発見しました。さらに翌年の1948年6月には、機械的に安定した接合型トランジスタが発明されました。
日本でも研究が始まり、1955年には東京通信工業(現ソニーグループ)が日本初のトランジスタラジオを発売しました。
その後、ゲルマニウムに替わる材料としてシリコンが主流になっていきます。ゲルマニウムより資源が豊富で、安定した性能が得られたためです。
1960年代に入ると、ベル研究所は金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)を発明しました。接合型トランジスタが動作中は常に電流を流すのに対して、MOSFETは電圧で制御するため、低消費電力という特徴があります。現在では、トランジスタと言えばMOSFETが主流となっています。
1963年、アメリカのフェアチャイルドセミコンダクターはP型とN型のMOSFETを相補的な構造にしたCMOS(Complementary MOS)を発明。低消費電力かつ高速スイッチング動作を実現し、コンピューターに使用される論理回路や演算回路の高性能化に大きく寄与することになります。
1959年にはアメリカのテキサス・インスツルメンツとフェアチャイルドセミコンダクターが集積回路(integrated circuit、IC)を発明します。ICは、これまでトランジスタや抵抗などの個別部品で回路を組んでいたものを1つのチップ上に集積したものです。その集積度は年々増加し、大規模集積回路(Large Scale Integration、LSI)へと発展しました。LSIは集積度が高まっていくと同時に、適用分野も広がっていきました。
1971年、米インテルが世界初のマイクロプロセッサと言われる「4004」を発表しました。4004はもともと日本のビジコン社が自社の電卓用として発案し、インテルと共同開発したものでした。インテルはその汎用性に注目し、ビジコン社から権利を買って一般にも発売することにしたのです。
1980年には東芝がフラッシュメモリを発明しました。今ではスマートフォンやデジカメ、PCのUSBメモリ、SSDなどで利用され、私たちの生活に無くてはならないものとなっています。今日、フラッシュメモリの世界シェアはサムスン電子がトップを走っています。
この後も半導体はますます微細化が進み、集積度は飛躍的に上がってきています。
IC(集積回路)について
最初にトランジスタラジオが発売されたころは、使用されているトランジスタの数を1石、2石と数えていました。せいぜい指折りで数えられる程度のトランジスタ数だったのです。
このような個々の部品としての半導体をディスクリート(個別)半導体と呼びます。これに対して、ひとつのチップ上に数多くのトランジスタなどの部品を搭載したものがIC(集積回路)です。
最初にテキサス・インスツルメンツが発表したICに搭載されていたのは、たった1個のトランジスタと数個の抵抗、そして1個のコンデンサでした。その後、微細加工技術が向上することにより、集積の度合いは年々増加していき、1970年代にはトランジスタが数千個程度まで集積されるようになり、これがLSI((Large Scale Integration)と呼ばれるようになりました。
その後、トランジスタ数が数万、数十万と増えるごとにVSLI(Very Large Scale Integration)、ULSI(Ultra-Large Scale Integration)と名付けられましたが、その後集積数が加速度的に増えてきりがなくなってしまい、今ではある程度以上の集積数が大きいICのことはLSIと呼ぶのが一般的になっています。
また近年では、これまで別々のICで実現していた機能を1つのチップにまとめることが増え、機能をまとめたLSIを特にSoC(System-on-a-chip)と呼ぶこともあります。
暮らしの中で使われる半導体とは
半導体は私たちの暮らしの中でどのように使われているのでしょうか?
例えば、多くの人が毎日使っているスマートフォンはどうでしょう。スマートフォンには制御の心臓部にマイクロプロセッサが使われています。また写真や動画の撮影用にはCMOSイメージセンサーが搭載されています。音楽の再生にはDAコンバータ、オーディオアンプが活用され、通話のために送受信用の高周波モジュールが組み込まれています。このように見ていくと、スマートフォンは半導体の塊のようなものかもしれません。
家電製品はどうでしょう。例えば、エアコン。やはりスマートフォンと同様、マイクロプロセッサが使われています。室温調整用の温度センサーも半導体ですし、リモコンに使われている赤外線LEDも半導体です。
自動車の分野でも、半導体の重要性が急速に高まっています。今日の自動車はアクセルやブレーキなどの基本的な操作も単純な機械式ではなく、エンジン・コントロール・ユニット(ECU)と呼ばれるコンピューターが制御しています。さらに自動運転が段階的に実現していく中で、運転支援や自動運転専用のコンピューターも半導体なしでは実現できません。もちろんカーナビも然りです。
そして、インターネット、銀行ATMなどの金融ネットワーク、公共交通機関、医療機器などの社会インフラで使われる電子機器でも、半導体は欠かせません。
さらに半導体技術の最高峰と言えるかもしれない、スーパーコンピューターがあります。私たちが直接触れるものではありませんが、世界一(2021年6月末時点)の計算速度を誇る富岳は、コロナ渦におけるマスクの着用方法や素材による飛沫の広がり方をシミュレーションするなど、私たちの日常に寄り添った情報を出してくれています。豪雨などの災害予測や、創薬の分野においても、高性能なスパコンは必要とされており、私たちの生活を助けてくれているのです。
半導体の技術革新で実現する暮らしとは
これからの半導体は、今まで以上に微細化/小型化していくと予測されます。家電などのデバイスの使い勝手が良くなるだけでなく、省エネにもつながり、地球環境への負荷を減少できるかもしれません。
また、小型化されたデバイスはIoT(モノのインターネット)をより促進し、インターネットを利用した日々の仕事や生活がより便利になるでしょう。
さらに近年脚光を浴びているAIをより活用していくためには、記憶領域の増大と計算処理速度の向上は欠かせません。さらなる微細化で半導体の性能が向上することにより、AIの性能も向上し、私たちの仕事をAIに任せることができる場面も増えて、生活にもっと余裕が生まれるかもしれません。
まとめ
私たちの生活にとって身近な存在の半導体。ICが発明されてから半世紀以上を過ぎてなお、研究者や技術者たちの努力によって半導体デバイスの発展スピードはますます早まり、その重要性も飛躍的に高まっています。
私たちは半導体デバイスを自分の仕事や生活のどのような場面で利用することができるのでしょうか。折につけ意識することで、自らの生活を積極的に、さらに豊かにしていくことができるのではないでしょうか。