- 2022-1-20
- 化学・素材系, 技術ニュース
- AZUL Energy, CNF, OER(酸素発生反応), ORR(酸素還元反応), セルロースナノファイバー, ナノ血炭, 両性電極触媒, 北海道大学, 宮城大学, 東北大学, 東北大学材料科学高等研究所, 次世代エネルギーデバイス, 産業廃棄物, 研究, 血炭, 電池用触媒
東北大学は2022年1月19日、同大学材料科学高等研究所(WPI-AIMR)が北海道大学、宮城大学、東北大学発ベンチャーのAZUL Energyと共同で、海洋/畜産廃棄物から、様々なヘテロ元素が導入されたナノサイズの「ナノ血炭」を初めて合成したと発表した。得られたナノ血炭は、白金炭素触媒などのレアメタルを用いた電極触媒に匹敵する性能を示すことがわかった。
日本では、漂白剤などとして、古来から炭に動物の血液をかけて焼成した「血炭」を用いてきた。これは、炭素が持つ吸着機能と、焼成時に複合化されたヘム鉄などの血液由来のヘテロ元素成分がもたらす触媒作用を活かしたものとなる。
現代でもヘテロ元素を導入した炭素材料(ヘテロ元素ドープ炭素)は、リチウム空気電池などに代表される金属空気二次電池の白金やイリジウム酸化物といったレアメタルに代わる電極触媒として期待されている。
広く食されているホヤは、食用部を除いたホヤ殻が大量の産業廃棄物となり、その処理が問題となっている。ホヤは、唯一セルロースを産生する動物で、その多くがセルロースナノファイバー(CNF)として殻に蓄積されており、ホヤ殻から抽出したCNFは炭化すると導電性の良い炭素となる。また、畜産業から出る廃棄血液を乾燥した乾燥血粉は、窒素やリン、ヘム鉄由来の鉄分などの養分を大量に含み、肥料として利用されている。
研究グループはこれらの背景から、ホヤ殻由来CNFと乾燥血粉に着目。これらを混合/焼成することで、窒素、リン、FeN4構造を導入したヘテロ元素ドープ炭素が合成できるのではないかと考えた。そこで、ホヤ殻から抽出したCNFと血粉を様々な比率で混合し、温度を変えて焼成。CNF由来のナノサイズの炭素構造と、血粉由来のヘテロ元素がドープされ、ORR(酸素還元反応)/OER(酸素発生反応)の両方に高い 活性を持つ両性電極触媒であるナノ血炭を初めて合成した。
合成したナノ血炭は、X線光電子分光(XPS)などの手法を用いて構造を同定した。今回のようにホヤ殻由来CNFとヘテロ元素を有する血粉のそれぞれの特徴を融合し、焼成して炭素化する手法はこれまで報告がなく、今回見出されたナノ血炭の合成手法は、バイオマス素材の特徴を複合化し、高性能で高機能な炭素材料を合成する新たな手法として期待される。
炭素の導電性とヘテロ元素の触媒活性により、今回合成したナノ血炭電極触媒は、レアメタルを用いた電極触媒に迫るORR/OER触媒活性を持つ。代替両性触媒として期待されている窒素ドープグラフェン(ΔE~1000mV)と比較しても十分に高活性で、次世代の両性電極触媒として期待される。
研究成果は、三陸地域の課題となっていた産業廃棄物の活用に加え、エネルギー循環社会に資する次世代エネルギーデバイス用高性能触媒材料の合成によってSDGsに貢献するものと考えられる。