- 2023-7-31
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- 4次元2相位相変調(BPSK)方式, High Altitude Research Station, Horizon 2020プロジェクト, Light: Science & Applications, SpaceX, Starlink, Thales Alenia Space, インターネット接続, スイス連邦工科大学チューリッヒ校, ツィンマーヴァルト天文台, ベルン大学, マイクロ波領域, モバイル通信, 光データ, 光ファイバーケーブル, 国立航空宇宙研究所(ONERA), 学術, 無線LAN
スイス連邦工科大学チューリッヒ校の研究チームが、53km離れた山頂間に毎秒1テラビットの光データを伝送する実証実験に成功した。同研究は、欧州連合のHorizon 2020プロジェクトの一環で、フランスの国立航空宇宙研究所(ONERA)とThales Alenia Spaceと共同で実施された。同研究成果は2023年6月20日、『Light: Science & Applications』に掲載された。
インターネットの基幹回線網は、光ファイバーケーブルの密なネットワークによって形成されており、ネットワークノード間で毎秒100テラビット以上のデータを伝送する。大陸間の接続は深海ネットワークを介しており、大西洋を横断するケーブル1本に数億ドルの投資が必要であり、莫大な費用がかかる。
一方、SpaceXのStarlinkのような、衛星経由のインターネット接続もある。しかし、衛星と地上局間のデータ伝送には無線技術が使われており、出力がかなり低い。無線LANやモバイル通信のような技術はマイクロ波領域で動作し、波長は数センチメートルである。
対して、レーザー光学系は、波長が約1万倍短い数マイクロメートルの近赤外線領域で動作するため、単位時間あたりにより多くの情報を伝送できる。光データ通信用レーザーは、大量の乱気流の妨害にもかかわらず、毎秒数十テラビットの伝送が可能だ。
共同研究チームは、スイスのユングフラウヨッホのHigh Altitude Research Stationからベルン大学のツィンマーヴァルト天文台への、光データの伝送実験に取り組んだ。このテストルートは、軌道を周回する衛星と地上局の間で光データ伝送するよりも難しいという。レーザービームが地上付近の高密度の大気の中を通過する際に、乱気流など多くの要因が光データに影響を及ぼすためだ。ONERAは、97個の小さな調整可能ミラーのマトリックスを備えた微小電気機械システムチップにより、大気の揺らぎの影響を大部分除去した。
また、遠くの受信機に届くのに十分な信号強度を確保するため、レーザーの平行光は直径数十センチメートルの望遠鏡を通して送られる。この幅広の光ビームは、到着時に、伝送された光ビームの幅と同じ桁の直径を持つ受信望遠鏡に正確に向けられなければならない。Thales Alenia Spaceは、宇宙空間において数千キロメートルの距離で、センチメートルの精度でレーザーを照準するエキスパートだ。
高速データ伝送に不可欠な信号変調は、スイス連邦工科大学が担った。今回の実験で、二位相偏移変調(BPSK)方式を用いることで、検出感度が大幅に向上し、最悪の気象条件下や低出力レーザーでも高速データ伝送が可能になった。伝送性能の向上は、振幅や位相、偏光といった光の特性に情報ビットを巧みにエンコードすることで達成された。
今回、共同研究チームは、単一波長で毎秒1テラビットの性能を達成した。同手法は、標準的な技術で、毎秒40テラビットまで拡張可能と見込まれている。将来的に、高価な深海ケーブルなしに、地球の衛星を介した基幹回線網が可能になると考えられる。高価な深海ケーブルが不要になる日も近いかもしれないという。