100倍の炭素を回収できる「人工葉」を開発

有機溶剤の乾サイドセルと水溶液の湿サイドセルを、陰イオン交換膜メンブレンで隔てたシステムにより、低コストかつ高効率でCO2を分離回収できる。赤は炭素原子、青は酸素原子、白は水素原子を示す。/Credit: Aditya Prajapati/UIC

イリノイ大学シカゴ校の研究チームが、現状のシステムの100倍ものCO2を分離回収できる、コスト効率の高い炭素回収システム「人工葉」を開発した。有機溶剤の乾サイドセルと水溶液の湿サイドセルを、陰イオン交換膜メンブレンで隔てたシステムにより、大気や煙道排ガスなど実際的な環境から、100%近い電流効率でCO2を分離回収できる。多大なエネルギーを必要とせず、比較的低コストで高効率を実現できるため、温室効果ガスを削減する上で重要な役割を果たすと期待される。研究成果が、2022年1月5日の『Energy & Environmental Science』誌に論文公開されている。

温室効果ガス削減のために、排ガス中のCO2を分離回収する物理化学的方法や、植物による固定を含む生物学的方法、地中や海中への隔離など、大規模なCO2回収固定技術が検討されている。そのひとつに、CO2を選択的に溶解できるアルカリ性溶液に排ガスを通し、溶液中の成分と反応させて吸収する化学吸収法がある。

現状の化学吸収法では、pHや温度の切替えによる吸収液の飽和度制御に多大なエネルギーを必要とし、回収効率が十分でなく持続的な操業における経済性に問題がある、と研究チームは考えた。そこで、陰イオン交換膜メンブレンAEMを挟んで、水分のない有機溶剤セル(乾サイド)と水容液セル(湿サイド)を設けることにより、pHや温度の切替えのためのエネルギーを必要としないシステムを考案した。

アルカリ性の乾サイドでは、KOHが飽和したエチレングリコールが環境中のCO2を捉え、高濃度の重炭酸塩HCO3-に変換する。HCO3-は、湿サイドの正電極に引き付けられ、AEMを通して湿サイドの水溶液中に移動することによって分離される。水溶液においてはCO2に戻され、濃縮状態で燃料や他の目的に利用することができるようになる。

このシステムのCO2回収率は、表面積4cm2あたり3.3mmol/hと非常に高く、反応に必要な電力が1WのLED電球以下の0.4KJ/hにも関わらず、CO2回収率は他のシステムに比べ100倍高いという。計算では、CO2のトンあたり回収コストは145ドルであり、エネルギー省の推奨規準であるトンあたり200ドル以下だ。

これまでの多くの実験室的なCO2回収システムが、圧力タンクに入った純粋なCO2を用いて実験しているのに対し、この研究においては大気や煙道排ガスなど低濃度の実際的な条件からでも回収できることを実証できた、と研究チームは説明している。また、このシステムでは、バックパックに収まるほどモジュラー表面積が小さいので積み重ねが容易であり、モジュール数を増減することで用途に応じた大きさに調整でき、産業分野だけでなく家庭や教室でも経済的に使用できるという。家庭の加湿器ほどの大きさの小さなモジュールにより、1日あたり1kg以上のCO2を除去でき、4つの産業用スタックにより、煙道排ガスから1時間あたり300kg以上のCO2を回収できる、と期待している。

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