電力を固体にして貯蔵する――安価な大規模溶融塩電池を開発

電力需給に余裕がある間に電力エネルギーを貯蔵して、電力需要が増大する時期に電力系統に供給できる蓄電池が開発された。

米国Pacific Northwest国立研究所(PNNL)の研究チームが、貯蔵電力容量の90%以上を最大12週間保持できる、アルミニウム-ニッケル溶融塩電池を開発した。用いた電解質溶融塩は、約180℃に加熱されるとイオン伝導性を生じ充放電が可能になるが、室温に冷却すると固体化して導電性を失って自然放電が抑制され、充電状態が長期間保持される。出力変動が大きい再生可能な自然エネルギーを電力系統(グリッド)に組入れる際に、季節的または時間的に出力安定化をはかる上で重要な手法になると期待される。研究成果が、2022年3月23日に『Cell Reports Physical Science』誌にオンライン公開されている。

地球温暖化対策として、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーの導入が進められている。しかし天候や日照、季節の変化による出力変動が大きいという問題があり、商用電力グリッドを安定的に接続させることは難しい。解決策の1つとして、発電した電力エネルギーを一旦貯蔵して平準化できるような、大規模蓄電池技術の開発が進められている。

これまでに、鉛電池やナトリウム硫黄電池、ニッケル水素電池など、多種多様な畜電池が開発されてきたが、共通する課題として、貯蔵期間中に自然放電を起こすことが知られている。自動車を長期間放置すると「バッテリーが上がる」という現象だ。研究チームは、自然放電を極力防止できる蓄電池の開発にチャレンジし、溶融塩電解質による“凍結融解現象”に着目した。

室温で非導電性である固体無機塩を電解質とすることで、電力貯蔵時には正極と負極が絶縁状態となり、自然放電を抑制できる。電解質を加熱して溶融塩にすると、イオン伝導性を生じ、電池として活性化して電力を取り出すことができる。この溶融塩電池は、第二次世界大戦下でドイツにおいてV2ロケット用に開発された技術だ。

PNNLの研究チームは、資源的に豊富なアルミニウム陽極とニッケル陰極を用いるとともに、硫黄を電解質に添加してエネルギー密度の増大を図った。プロトタイプを試作した結果、初期貯蔵電力容量の92%を最大12週間保持できるとともに、理論的エネルギー密度は鉛蓄電池やフロー電池よりも高い260Wh/kgを得ることを確認した。また、陽極と陰極の間に設置されるセパレータには、高価で破損しやすいセラミックセパレータの代わりに、シンプルなガラス繊維を用いて低コスト化と堅牢性を確保した。

電力貯蔵に関する材料コストは、1kWhあたり約23ドルと非常に低い。研究チームは、さらに安価な鉄を使うことで、約6ドルまで下げられるとし、現在のリチウムイオン電池の材料コストの15分の1にできると期待している。

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