リチウム空気電池を長寿命化するカーボン新素材の正極を発見――グラフェンメソスポンジを採用 東北大ら

東北大学は2023年4月10日、同大学と信州大学、岡山大学、大阪大学、スロバキア科学アカデミー、オーストリアUniversity of Natural Resources and Life Sciences、中国上海科技大学の共同研究グループが、リチウム空気電池を長寿命化するカーボン新素材の正極を発見したと発表した。

次世代蓄電池として期待されるリチウム空気電池では、エネルギー密度が既存のリチウムイオン電池の数倍以上に達するとみられている。一方で、劣化が激しいため、繰り返し充放電できないことが課題となっている。

劣化の主な原因としては、カーボン正極材料の劣化や電解液の劣化、リチウム負極の劣化が挙げられる。同研究グループは今回、カーボン正極材料の劣化の低減を目指して研究を行った。

正極のカーボン材料では、充放電時に過酸化リチウム(Li2O2)が析出と分解を繰り返す。このLi2O2が酸化剤となって正極を劣化させるほか、さまざまな副反応を生じて電池を徐々に劣化させる。

これらの劣化は、正極の電位が高くなるにしたがって激しくなる。このため、酸化耐性に優れたカーボン材料を正極に使用することや、正極の電位を下げることが重要となる。

カーボン材料の劣化は、エッジサイト(炭素材料を構成するグラフェンシートの端の部位)が起点となって進行する。このため、エッジサイトを持たないカーボン材料が望まれる。ただし、エッジサイトを持たない場合でも、Li2O2の析出場所であるナノ細孔を欠いた材料を用いると、容量が発現せず正極に適さない。

エッジサイトのイメージ

同研究グループは今回、東北大が開発したカーボン素材「グラフェンメソスポンジ(GMS)」をリチウム空気電池の正極に採用した。GMSは7nmの泡状のナノ細孔を大量に有しており、これを用いることで容量が6700mAh/gに達した。

さらに、合成過程で1800℃の熱処理が施されるGMSは、エッジサイトが潰れている。これにより、カーボン正極材として従来用いられているカーボンナノチューブやカーボンブラックを上回る耐久性を達成した。

また、1800℃の熱処理では、隣接するエッジサイト同士が融合することでC‒C結合が形成される。その際に、グラフェンシートに炭素5員環・7員環(トポロジー欠陥)が導入されることが以前より予想されていた。

今回の研究では、幾何学的解析、構造形成シミュレーション、ラマン分光を用いてトポロジー欠陥の形成を詳細に解析した。加えて、原子分解能の電子顕微鏡観察によりその存在を証明することにも成功した。冒頭の画像は、左がGMSの構造模型、右が原子分解能の電子顕微鏡写真となっている。

GMSのトポロジー欠陥では、非晶質のLi2O2ナノシートが優先的に析出した。リチウム空気電池の充電時において、非晶質のLi2O2ナノシートは結晶性のLi2O2粒子より低電位で分解する。このため、GMSを用いることで正極の充電電位を下げることも可能となる。

今回の研究結果は、リチウム空気電池が有する課題のうち、カーボン正極材料の劣化の低減に寄与する。今後、残り2つの課題(電解液の劣化、リチウム負極の劣化)の解決やリチウム負極、電解液の研究開発が進展することで、リチウム空気電池の実用化に近づくことが期待される。

関連情報

リチウム空気電池を長寿命化するカーボン新素材を発見… | プレスリリース・研究成果 | 東北大学 -TOHOKU UNIVERSITY-

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