原子層半導体の一次元構造化に成功 岡山大学などの研究グループ

岡山大学は2023年5月12日、同大学大学院などの研究グループが酸化タングステンナノワイヤの成長を介した新しい化学気相成長法を用いて、原子レベルに薄い半導体材料の遷移金属ダイカルコゲナイド(TMDC)の「ナノリボン」と呼ばれる一次元構造の合成に成功したと発表した。今回の研究成果は、2023年5月1日、米国化学会(American Chemical Society)発行の学術雑誌「ACS Nano」に掲載された。

TMDCは原子3つ分の厚みの半導体特性を持つ原子層物質で、機械的柔軟性と優れた電気/光学特性を持つことから、次世代のフレキシブル光電子デバイスへの応用が期待されている。このような原子層物質をナノリボンと呼ばれる一次元構造にすると新しい特性の発現が期待されるため、研究グループはTMDCの一種であるWS2ナノリボンの合成を試みた。

研究グループが考えたのは、酸化タングステン(WxOy)のナノワイヤをテンプレートとしてWS2を成長させ、ナノリボンを合成する手法。まず、原料として金属塩(Na2WO4)を採用し、成長基板に塗布した後、その原料を高温で粒子化し、微量な有機硫黄の蒸気と反応させてWxOyナノワイヤを成長させた。さらに、WxOyナノワイヤと硫黄を連続的に反応させ、WxOy上にWS2ナノリボンを成長させた。

これを光学顕微鏡で観察すると、一次元状に成長した物質が確認でき、光学特性から単層に由来する発光特性も確認できた。また、多数のWS2ナノリボンのPLを測定したところ、ほぼすべてのWS2ナノリボンが単層であることも明らかになった。

この単層WS2ナノリボンを用いて電界効果トランジスタ(FET)を作製したところ、電子伝導型(n型)のFETとして動作させることにも成功。発光特性とFET特性を持ち合わせるWS2ナノリボンの合成は世界初となる。炭素からなる原子層物質のグラフェンがナノリボン化したグラフェンナノリボンについては、さまざまな合成手法が発見されているが、TMDCナノリボンに関しては、これまで合成手法が確立されていなかった。

TMDCは次世代のウェアラブルセンサーや発光素子、発電素子などへの応用が期待されており、研究グループは次世代ナノスケール光電子デバイスやIoE(Internet of Everything)の実現に貢献できる成果だとしている。

関連情報

原子層半導体の一次元構造化に成功~次世代ナノスケール光電子デバイスへの応用に期待~ – 国立大学法人 岡山大学

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