オンデマンドでワクチンを迅速に供給――MIT、マイクロニードル式ワクチンパッチを製造できるデスクトップ型ワクチンプリンターを開発

Credits:Image: Ryan Allen from Second Bay Studios

多くのワクチンは低温で保存しなければならないため、インフラが整っていない地域に輸送するのは難しい。マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究チームは、この問題を解決するため、オンデマンドでマイクロニードルパッチのワクチン製造を可能にする卓上サイズのワクチンプリンターを開発した。パッチを皮膚に貼るだけでワクチン接種ができ、従来の注射による接種のようにワクチンを溶解する必要がない。一度作製したワクチンパッチは、室温で数カ月間保存が可能だ。研究成果は、『Nature Biotechnology』誌に2023年4月24日付で公開されている。

研究チームは、もともとはエボラ出血熱のような感染症が発生した際に、ワクチンを素早く製造して配備できる装置を作ることを目的としていた。そこで、大きさが親指の爪程度のパッチに何百本もマイクロニードルを埋め込む、新しいタイプのワクチン接種方法の開発に取り組んできた。現在、このタイプのワクチンはポリオ、麻疹、風疹などさまざまな疾患に対して開発が進められている。パッチ式のワクチンは、皮膚に貼るとマイクロニードルの先端が皮下で溶けて、ワクチンが放出される仕組みとなっている。

今回の研究では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するmRNAワクチンパッチを作製した。長期間安定性を保つために、mRNAワクチン分子は脂質ナノ粒子でカプセル化されて、マイクロニードル印刷用の「インク」に含まれている。

また、ワクチンの安定化には、インクの組成も重要な役割を果たしている。硬さと安定性の両立に最適なポリマーの組成を発見し、マイクロニードルの形成によく用いられるポリビニルピロリドン(PVP)とポリビニルアルコール(PVAL)が1:1の比率でインクに含まれている。このポリマーにより、インクの適切な形状維持や安定した室温保存が可能となっている。

マイクロニードルパッチは、マイクロニードル型にインクを注入後、1〜2日乾燥させて作製する。今回開発したプロトタイプは、48時間で100枚のパッチを作製可能だが、将来的にはより高性能化できると研究チームは考えている。

ワクチンの長期安定性は、4℃または25℃で最長6カ月保存、37℃で1ヵ月保存の各発光タンパク質をマウスに投与することで検証しており、いずれの場合もタンパク質の機能が損なわれていないことを確認した。実際に、COVID-19ワクチンパッチも作製している。マウスに接種したところ、ワクチンに対する抗体反応は、従来の注射によるワクチン接種と同様であった。3カ月間室温保存したワクチンパッチでも同様の強い抗体反応が得られている。

今回の研究はmRNAワクチンを対象としているが、研究チームはタンパク質や不活化ウイルスなど、他のタイプのワクチン製造にも応用する予定だ。

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