リチウムイオンに代わる次世代電池――安全、効率的で無害な水性アルミニウムイオン電池

南オーストラリアのフリンダース大学と中国の浙江理工大学の共同研究チームが、安全で効率的かつ無害な水性アルミニウムイオン電池を創成する指針を得ることに成功した。酸化還元電位が高く、電気化学反応が高速なアルミニウム(Al)は地殻に豊富に存在するので、低コストで持続可能性に優れ、難燃性かつ空気中で安定な水性電解質を用いることから、安全かつ効率的で無害なバッテリーを創成できると期待されている。研究成果が、2023年6月23日に『米国化学会誌』に公開された。

リチウムイオン電池はスマートフォンからEVまで、幅広く活用されている。しかし、リチウムによる発火の危険性や、リチウム資源の遍在による長期安定供給性に対する懸念から、リチウムに代わる代替元素を使用した二次電池の開発が進められている。

アルミニウムイオン(Al3+)や 亜鉛イオン(Zn2+)、マグネシウムイオン(Mg2+)を含む多価金属イオン電池は、地殻に豊富に存在する元素を用いるとともに、リチウムイオン電池よりも著しく高い出力密度を示すことが知られている。特に、Alは3番目に豊富な元素であり、これを用いたアルミニウムイオン電池は持続可能で低コストのエネルギー貯蔵システムとなり得ることから、大きな注目を集めている。

だが、アルミニウムイオン電池の主な問題の1つは、Al3+イオン錯体の移動度が低いことで、陰極(正極)効率を低下させている。この問題を解決するために、正極に共役系ニトロキシルラジカルを用いることが提案されているが、バッテリーの出力電圧性能は依然として低いのが現状だ。

共同研究チームは正極材料として、多価金属イオン電池の正極材料として使われる非共役系ニトロキシルラジカル「TEMPO」を用い、電解質としてリチウムイオン電池などの高エネルギー密度化に有効な、水性ルイス酸電解質Al(Otf)3を用いることを検討した。研究チームはこれまでに、有機ハイブリッドなリチウムイオン電池や、ナトリウムイオン電池、全有機系電池に向けて、ラジカル材料を開発してきたが、これらのラジカル材料の水性ルイス酸電解質における電気化学反応が良く理解されてなかったため、アルミニウムイオン電池には応用されてこなかった。

実験および理論計算による研究を進めた結果、設計したアルミニウムイオン電池は、1.25Vの安定した出力電圧を持つとともに、800サイクルに渡って110mAh/gの容量を保持し、サイクルあたり0.028%の損失しか示さないことが明らかになった。アルミニウムイオン電池は、資源的に豊富で持続可能性が高く低コストのAlを用い、また電解質が水性で難燃性かつ空気中で安定であることから、発火の危険性や資源遍在による長期安定供給に対する懸念のあるリチウムイオン電池に代わる、安全で効率的かつ無害な電池を開発できると期待されている。

関連情報

‘Radical’ new green power source – News
Lewis Acid-Induced Reversible Disproportionation of TEMPO Enables Aqueous Aluminum Radical Batteries | Journal of the American Chemical Society

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