湿度変化で発電できる「湿度変動電池」の性能が、電子回路を駆動できるまでに向上 産総研

産業技術総合研究所(産総研)は2025年1月22日、電子回路を駆動できるまでに出力を向上させた湿度変動電池を開発し、世界で初めて、湿度変化を利用した発電で4カ月以上の長期にわたってワイヤレスセンサーを駆動させたと発表した。太陽電池が使えない暗所でも、電池交換不要でメンテナンスフリーのワイヤレスセンサーを使用できるようになると期待される。

研究では、全固体電池などで用いられるリチウムイオン伝導性セラミック固体電解質膜を用いて、大幅に湿度変動電池の性能を向上させた。湿度変動電池は、空気の湿度変化を利用して発電する発電素子で、大気に開放された部屋(開放槽)と密閉された部屋(閉鎖槽)に強い吸湿性を持つ電解液(塩化リチウム水溶液)と電極が収納されており、開放槽と閉鎖槽の間は陽イオン交換膜で仕切られている。

これまで陽イオン交換膜としてポリマー系の膜を用いていたが、従来の湿度変動電池では、自己放電で多くのエネルギーが無駄になっていた。今回は、従来のポリマー系陽イオン交換膜の代わりに、水分を全く透過させないリチウムイオン伝導性セラミック固体電解質膜を用いており、自己放電がなくなり、従来よりも高出力で発電ができる。

開発した湿度変動電池の大きさは35×35×5mm、内部の隔膜には厚さ20μmのガラスセラミック電解質膜(オハラ製LICGC SP-01)を用いている。

開発した湿度変動電池の(a)分解図と(b)写真

実験環境にて湿度90%で完全に放電させた後、湿度を30%に下げた際の最大出力を測定したところ、従来のポリマー系陽イオン交換膜を用いた場合に得られていた出力密度(6.4μWcm-2)の68倍に相当する出力を得られた。

この湿度変動電池を屋外に設置し、出力を継続的に計測したところ、昼夜の湿度変化で、3カ月以上発電できることが確認された。ワイヤレスセンサーなどの省電力な電子回路を駆動できる平均出力が得られたため、実環境でも十分な発電性能を有していることがわかった。

開発した湿度変動電池の性能
(a)実験環境での最大出力測定結果
(b)屋外で継続的に測定した湿度変動電池の出力

また、湿度変動電池による電子回路の駆動を実証するため、湿度変動電池を電源とするワイヤレスセンサーを開発し、屋外に設置して実証実験を実施した。その結果、4カ月以上にわたりワイヤレスセンサーのデータを送信し続けることができた。湿度変化を利用した発電で4カ月以上も電子回路を駆動させた例はなく、今回の実証実験が世界初となる。

湿度変動電池によるワイヤレスセンサーの駆動実験
(a)湿度変動電池を電源とするワイヤレスセンサーと受信機
(b)屋外の鉄骨に設置したワイヤレスセンサー
(c)ワイヤレスセンサーから送信されたデータ

開発した自己放電のない湿度変動電池を対象に、これまで明らかになっていなかった湿度変化を利用した発電についての熱力学理論を導出したところ、開発した自己放電のない湿度変動電池は、準静的サイクルでは発電効率が100%となる優れた発電手法であることがわかった。実験では、与える湿度変化を遅くして準静的サイクルに近づくほど発電効率が向上することを確認しており、96時間周期の非常にゆっくりとした湿度変化を与えることで60%の発電効率が得られた。

湿度50%と70%の間の湿度サイクルを異なる周期で与えた際の湿度変動電池の発電効率の測定結果

今後、開発した技術と熱力学理論を活用し、さらなる高出力化に向けた研究開発を続けていくとしている。

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