- 2025-1-23
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オーストラリアのニューサウスウェールズ大学化学科の研究チームが、環境に優しく高性能な有機材料系の電池を開発している。
同大学の研究チームは、プロトン(水素イオン)を貯蔵できる有機材料の開発に成功し、これを活用して研究室で充電可能なプロトン電池のプロトタイプを製作した。この電池は、広く利用されているリチウムイオン電池が抱える資源不足、環境への影響、安全性およびコスト等の問題を克服する可能性がある。
この研究の特筆すべき成果は、プロトン電池の正極材として有機材料「テトラアミノ-1,4-ベンゾキノン(TABQ)」を開発したことだ。この有機材料は水素結合ネットワークを利用して迅速なプロトン移動を可能にし、室温および氷点下の温度でも高いエネルギー効率を実現できる。
一般的に電池は化学エネルギーを電気エネルギーに変換するものだが、広く普及しているリチウムイオン電池はリサイクルが困難で製造コストが高くなるだけでなく、急速充電や安全性にも課題があり、化学反応の速度が低下する低温では効率が低下する。一方でプロトン電池は、リチウムのように資源としての制約もなく、比較的安価であり、急速充電が可能で二酸化炭素の排出量をゼロに抑えることができる。また、最も小さい元素である水素イオンの高い拡散性は、エネルギー密度と出力密度の向上に寄与する。
研究チームは、当初電極材として有機材料「テトラクロロベンゾキノン(TCBQ)」の利用を検討したが、TCBQの酸化還元電位は正極材とするほどには低くなく、負極材にするほど高くもなかった。そこで正極材としての性能を高めるため、TCBQの4つの塩化物基をアミノ基に置き換えることでTABQを開発した。その結果、プロトン貯蔵能力を大幅に向上させ、酸化還元電位を十分に低くすることに成功した。
TABQを正極に、TCBQを負極に使用したプロトタイプのテストを通じ、3500回以上の充放電サイクルを達成し、高い容量、低温の条件下でも高い性能を確認している。プロトン電池は、送電網規模のエネルギー貯蔵にも適しており、低コストで安全性が高く、再生可能エネルギーの普及に貢献すると関係者は期待している。また、同電池は両電極に有機分子を用い、電解質に水溶液を使用することで、軽量かつ安全で持続可能なエネルギーソリューションを提供する。
今後、研究チームはプロトン電池をさらに改良するため、正極材料から負極材料に設計を移行し、電池の出力電圧をさらに高めることを目指して開発を継続するとしている。このプロトン輸送のメカニズムは、水素の安定した形態での貯蔵や輸送を可能にし、水素エネルギーの実用化にも繋げることができる。本研究の関係者は、プロトン電池がエネルギー分野の課題を解決する持続可能な選択肢として、今後ますます重要な役割を果たしていくと期待している。