産総研などが開発のトレンチゲート型SJ-MOSFET、SiCトランジスタの世界最小オン抵抗を達成――EVの電力変換システムなどで利用へ

今回開発した2タイプのSiCトレンチゲート型SJ-MOSFET

産業技術総合研究所(産総研)は2018年12月4日、炭化ケイ素(SiC)半導体を用いた1.2kV耐電圧クラスのトレンチゲート型スーパージャンクション(SJ)MOSFETを開発したと発表した。富士電機、住友電気工業、トヨタ自動車、東芝、三菱電機との共同研究になる。SiCトランジスタとして世界最小のオン抵抗を達成し、実使用時に重要になる高温特性や動特性に優れていることも実証した。

パワーエレクトロニクスの高効率化や小型軽量化に向けて、中核となるパワー半導体デバイスの性能向上が求められている。しかし、既存のSiパワーデバイスはSiの物性から理論限界に近づきつつあり、小型化や高効率化に有利な物性があるSiCを使った次世代型パワーデバイスの開発が進められている。

産総研などは今回、ハイブリッド電気自動車や電気自動車の電力変換システムでの使用が見込まれている1.2kV耐圧クラスデバイスの超低オン抵抗化を目指した。SiC-MOSFETの構造としては、最近になってトレンチゲート型MOSFETが開発され、オン抵抗の低減につながった。さらにオン抵抗の低減を図るには、耐圧保持層となるドリフト層をSJ構造とすることが有効だと見込まれている。

縦型SiC MOSFETの構造の種類

SJ構造とは、ドリフト層をn型とp型のピラーで構成したもの。ピッチ間隔を狭くすることで、SiCや窒化ガリウム(GaN)の縦型デバイスの抵抗を、理論限界以下に低減できる。特に1.2kV耐圧クラスでは、数µm程度のピッチのSJ構造にすることで縦型デバイスの理論限界以下の抵抗となる。

従来のSiCとGaNの縦型デバイス(点線)、ピッチの異なるSiCの縦型SJデバイス(実線)に対する耐電圧-オン抵抗の理論限界線

しかし、SiCは非常に硬く、Siよりも加工が難しい。狭いピッチのSJ構造を作製するのは困難だった。

産総研はこれまでに、イオン注入とエピタキシャル成長を組み合わせたSiCトランジスタの独自構造をもつIE-MOSFETを開発してきた。今回のSJ-MOSFETの開発においては、n型エピタキシャル成長とp型イオン注入を繰り返してピラーを積み上げていくマルチエピタキシャル法を利用。IE-MOSFETの開発を通じて得たノウハウを応用することで、狭いピッチのSJ構造を高精度に形成できた。

今回開発したトレンチゲート型SJ-MOSFET (SJ-UMOSFET)の断面写真

続いて産総研は、今回開発した2タイプのSJ-MOSFETについて、さまざまな評価をすることで製品化の可能性を検証した。

まずは、4インチウエハー全面で1.2kV耐圧クラスが得られる量産レベルの設計において、高温特性と動特性を評価した。U字型トレンチゲートを適用したMOSFET(UMOSFET)のオン抵抗をSJ構造の有無で比較すると、室温では0.7mΩcm2と小さな差にとどまった。だが、175℃ではSJ構造無しでは6mΩcm2だったが、SJ構造有りでは3.8mΩcm2と低く抑えることに成功。高出力での動作時に自己発熱で高温になっても、オン抵抗の増加が少ないことを実証した。

また、モーターなどの負荷が事故などで短絡した際に、通電状態のままデバイスに高電圧がかかって破壊に至るまでの時間を表す負荷短絡耐量は、SJ構造の有無にかかわらず、ほぼ同等だった。SJ構造による安全性の低下は見られなかったことになる。

SJ-UMOSFETとSJ無しUMOSFET(IE-UMOSFET)のオン抵抗の温度依存性(左)と負荷短絡耐量(右)

次に、SJ構造によるオン抵抗低減効果を検証した。トレンチ溝をV字型に形成したSJ-VMOSFETでは、耐圧1170Vでオン抵抗0.63mΩcm2を達成。同耐圧レベルのSiC-MOSFETでは世界最小のオン抵抗になったと説明している。

今回開発したSJ-VMOSFETの断面構造とオン抵抗の内訳

今後は企業への技術移転を目指し、SJ構造の設計と製造プロセスの高度化を進める計画だ。実使用を想定して、信頼性や耐量などのデバイス特性の向上を図っていく。

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