EVの目指すべき未来――自動車の可能性、先進性をEVで表現すること

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環境保護の観点から、排出ガスを出さないクリーンな自動車であるEV(Electric Vehicle)が注目を集めています。今回の連載では、EVの自社開発や販売などを手掛けるGLM株式会社 営業本部営業部部長兼技術本部PM 仙北屋紀史氏にお話を伺い、EV開発の歴史や変遷、そして今後の展望など、全2回で最新情報を紹介しています。

前編では、「EVの歴史と現状」としてEV開発の歴史から、EV普及のカギとなる技術、EV大国となりつつある中国の状況などをご紹介いただきました。今回の後編では、「EVの目指すべき未来」として、現状のEV開発の課題や将来に向けた展望などを伺います。(執筆:後藤銀河)

――前回、御社がEVプラットフォームを提供するプラットフォームビジネスを手掛けられていると伺いました。

仙北屋氏:完成車の製造・販売に加え、EVプラットフォームビジネスも展開し、これまでに素材メーカーなどと共同開発を行っています。

こちらは帝人株式会社との共同プロジェクトで、従来より3割軽くて200倍の強度がある「PC樹脂製ピラーレスフロントウィンドウ」を搭載したトミーカイラZZの特別使用車です。

帝人と共同開発した樹脂製ピラーレスフロントウィンドウを搭載した特別仕様車。ナンバー取得済みで公道走行が可能。

仙北屋氏:私たちは自動車業界の中にいますから、自動車の開発メーカーとして、将来の自動車のトレンドは予測できます。一方で、素材メーカーは素材に関するスペシャリストなのですが、将来の自動車向けの素材に何が求められているのか、想像するのが難しいのです。自動車メーカーが新素材を開発するときは、自社内だけで完結するように動きます。これは厳密に秘匿管理された特許戦略があるからで、今後の自動車向け素材についてコンサルしてくれるような完成車メーカーはいません。

私たちは、素材メーカーなどからの引き合いに対応するため、コンセプトの企画段階から、デザイン、車両設計までのサポート提供を、EVプラットフォームビジネスとして事業化しています。

――自動車メーカーの新型車開発では、先進技術は競合他社に対する競争力確保のために秘匿情報として保護されていると。

仙北屋氏:私たちのビジネスの特徴として、特許や知的財産という考え方ではなく、いま持てる全てを世の中の必要とする人に提供しようというポリシーがあります。こうした考え方がないと、恐らく他社の研究開発のお手伝いはできないと思います。

技術屋として、持てる技術を世に出したいという想いがある。

仙北屋氏:かつては1台開発するのに数年要していた自動車の開発も、机上でシミュレーションができるようになったことで、試作が減り、開発のスピードが上がってきています。技術の移り変わりはどんどんスピードが上がっていて、EV開発も例外ではありません。

一生懸命育てた技術でも、自分達だけのものにしていると、技術が使われることなく腐っていく。私は技術屋として、自分達の技術が世の中のためになるほうが嬉しいという考えがあり、私たちの持てる技術をお蔵入りさせるのではなく、プラットフォーム事業を通して技術を提供することで、自動車産業を活性化させたいと思っています。

欧州ではメガサプライヤが主導して、オープンイノベーションを推進しようという動きが起きています。日本でもEVのプラットフォーム、ハーネスや制御ソフトウェアのプラットフォームを共有化するような動きが出てくるとよいのですが、これはなかなか難しい。

――EVの普及を加速するため、メーカーとしてやるべきことがあるということでしょうか。

仙北屋氏:ヨーロッパや中国の動向を見ていると、FCV(Fuel Cell Vehicle:燃料電池自動車)の時代が来る前に、EVの時代がくるということは、日本の自動車メーカーも感じているでしょう。それを、どのように先読みして、日本の企業として協業していくべきなのか。EVを更に普及させていくためには、枠組みの一番大きなところで共有化できるものをもっと増やす必要があると思います。

秘密主義は取らず、Tier1や素材メーカーと共にEV開発を推進することが、私たちに求められている役割だと考えています。

――御社が次の完成車EVで実現したい技術には、どのようなものがありますか?

仙北屋氏:すでに量産EVとして日産のリーフやテスラもありますし、「EVの新車を出しました」だけではインパクトは弱いでしょう。近年、自動車業界でも持続可能性というキーワードが注目されていますが、例えば、樹脂の部分で何か社会に貢献する新しい試みが出来ればと考えています。強度設計上、車の軟鋼板を使っている部分は、樹脂素材に置き換えることができます。現状のボディはグラスファイバーですが、それを改善し、樹脂素材や天然素材を使って、軽量化やリサイクル性、コスト低減も含めて考えたいと思っています。

私たちはライトウエイトスポーツを目指すというコンセプトは変えません。車重が軽ければ、運動性能や走行性能に関してもメリットがありますし、運転して楽しいと思えなければスポーツカーではないでしょう。私たちのプロダクトは、大手メーカーのように何万台も売れるような、万人受けを目指しているわけではなく、スポーツカーの愛好家に深く刺さるものが出せれば良いと、そこは割り切っています。

自動車の先進性をEVとして表現することが大切

――今後のEVに必要となる技術には、どのようなものがあるのでしょうか。

仙北屋氏:各社が開発に取り組んでいる自動運転技術ですが、デジタルな制御にはICE(エンジンなどの内燃機関)よりもEVが適しています。ICEはどれだけデジタルで制御しても、厳密な着火タイミングまではコントロールできません。電気モーターであればデジタルでダイレクトに制御できますから、より良い乗り心地を目指すのであれば、EVのほうが適しているでしょう。

またEVは、アクティブサスペンションとの相性も良い。アクティブサスペンションの制御を追求していくと、路面状況を察知して、それに適した車両姿勢となるよう制御が必要になります。これをより高い次元で実現しようと思えば、車の各部をどう推進させるかということに関わってきますから、やはりデジタル制御に適したEVのほうが有利になるでしょう。

四輪駆動のユニットを作るときにも、EVはプロペラシャフト(注:エンジンの動力を前後の車軸に伝達するためのシャフト)を持たなくても良いというメリットがあります。駆動用電池を床下に積もうとすると、プロペラシャフトを通すスペースがなくなってしまいますが、前後の駆動輪をそれぞれのモーターで駆動するEVにすることで、それも解決できます。四輪駆動のEVで、自動運転+アクティブサスペンションでトルクベクタリングを最適化し、極上の乗り心地を実現するというのは、ひとつの方向性としてあるでしょうね。

それにEVは、近年注目を集めているコネクティッド技術とも相性が良いと言えます。こうしたEVの特徴を生かし、例えば近場の充電ステーションに自動運転で向かったり、到着後に自動で充電を開始したり、決済さえも自動で完了する。これからは、将来の自動車が備えるべき先進的な機能を、EVとして表現していくことが大切だと思います。


仙北屋紀史(GLM株式会社 営業本部営業部部長兼技術本部PM)
大学在籍時に自動車工学を専攻。在学中は「ル・マン プロジェクト」に在籍し、林義正氏に師事する。卒業後は自動車部品メーカーでレーシングカーや量産試作車の研究開発業務に携わった後、2019年からGLMにて現職。昨今の直列6気筒エンジン復権に注目している。

取材協力先

GLM株式会社

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ライタープロフィール
後藤 銀河
アメショーの銀河(♂)をこよなく愛すライター兼編集者。エンジニアのバックグラウンドを生かし、国内外のニュース記事を中心に誰が読んでもわかりやすい文章を書けるよう、日々奮闘中。


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