有機半導体の電子状態を基板への吸着で制御――100兆個以上の分子の形状が一斉に変化

印刷プロセスを用いた有機半導体単結晶薄膜の製造手法

東京大学は2020年1月24日、有機半導体単結晶超薄膜が基板に吸着する際の分子形状を0.1nmの精度で決定することに成功したと発表した。この結果、比較的剛直な構造を持つ有機半導体であっても、基板に物理吸着することで、100兆個以上に及ぶ全ての分子が同じように形状を変えることを明らかにしたという。

有機分子は炭素原子が共有結合で結びついた化学構造を持ち、一般的に構造式を用いてユニークな分子一つ一つを区別できる。一方で、同一の構造式を有する有機分子でも、結合の回転の自由度に起因する分子の形状(立体配座)の違いや、多数の分子が集合した際の並び方(集合体構造)の違いよって、その化学的・物理的特性は異なる。そのため、有機分子材料にさまざまな機能性を付与するためには、分子一つ一つの化学構造だけでなく、分子の形状と集合体構造を最適化する必要がある。

東京大学の研究グループではこれまでに、厚さわずか数分子層(10nm程度)からなる有機半導体単結晶超薄膜を大面積で塗布可能な印刷手法を開発していた。この超薄膜中では、1cm2当たりに100兆個以上の分子が自ら集合することで高品質の単結晶が形成される。しかし、基板界面の分子の形状を精密に計測することは極めて困難だった。

そこで本研究では、印刷プロセスを用いて半導体のインクから有機半導体単結晶の単分子薄膜を作製した。基板上に保持された半導体インクの表面では、たくさんの分子が自ら集合し、薄膜を形成するため、インクと気相の気液界面で得られた薄膜は、インクの乾燥に伴い基板上に貼り付く。この薄膜に対して、放射光施設でX線の反射や吸収の精密計測を実施した。

X線反射測定から得られた深さ方向の電子密度プロファイル

その結果、有機半導体単結晶の基板界面の分子の形状を0.1nmの精度で決定することに成功。基板に物理吸着するだけで、100兆個以上におよぶ全ての分子の形状が同じように変化することも解明した。さらに、この基板界面付近の分子形状の変化は、厚さが4nmの1分子層からなる膜でのみ観測され、超薄膜の厚さを制御することで、物理吸着による分子形状の変化が抑制され、電子状態が変化するとともに移動度が40%以上向上することも明らかにした。

左)元々の結晶構造。それぞれの分子は、基板に対して真っすぐに立った構造をとる。右)物理吸着により分子変形が生じた際の結晶構造(密度汎関数法を用いた理論計算からの予想)。基板側の分子骨格が一斉に歪んでいる。

有機半導体は有機分子の中でも比較的剛直な骨格を有しているため、その結晶においても分子の形状は変わらないとされている。そのため、有機半導体の高性能化には、合成化学により分子一つ一つの化学構造を制御し、適切な分子結晶をデザインすることが一般的だった。本研究成果はこの常識を打ち破るものだという。

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