- 2021-10-12
- 研究・技術紹介
- CAE, δ(デルタ), ε(イプシロン), λ(ラムダ), ν(ニュー), アルミダイカスト(ADC12), シメオン・ドニ・ポアソン(Siméon Denis Poisson), ポアソン数, ポアソン比, ヤング率(縦弾性係数), 異方性材料, 鋳鉄(FC200)
CAE用語として出てくるポアソン比は、フランスの物理学者シメオン・ドニ・ポアソン(Siméon Denis Poisson)に由来する言葉です。実務経験者でも、ポアソン比がCAE解析に必要なひずみに関する材料特性の1つだとは知っていても、意味や求め方を正確に理解している人は少ないのではないでしょうか。
ここでは、ポアソン比とは何か、材料の違いによりひずみが変わること、実務での活かし方などを具体的に説明していきます。製品開発におけるポアソン比の重要性を理解いただけるはずです。
1.ポアソン比とは
物体に荷重をかけると生じる、縦と横方向のひずみ(歪み)の比のことをポアソン比といいます。例えば、棒を引張ると引っ張った方向に棒は伸び、垂直方向は逆に細くなります。この伸びる現象を縦ひずみ、細くなる現象を横ひずみといい、ポアソン比は「横ひずみ/縦ひずみ」で求められます。
物体の材質により変化率が異なるため、材料が変わるとポアソン比も変わってきます。ポアソン比はヤング率(縦弾性係数)や横弾性係数などとともに、応力や振動、熱などのCAEにおける部品の強度計算などに必要な材料特性の1つです。
2.縦ひずみと横ひずみとは
先述した縦ひずみは引張り方向のひずみなので、引張りひずみともいいます。逆に棒を圧縮すると縮む方向に縦ひずみが生じ、この場合は圧縮ひずみになります。この時、垂直方向の横ひずみは逆に太くなります。つまり、引張り荷重で縦ひずみはプラスに、横ひずみはマイナスに、圧縮荷重で縦ひずみはマイナスに、横ひずみはプラスになります。
3.ポアソン比の求め方
荷重をかけると生じるひずみですが、正確には物体の変化率のことを意味します。縦ひずみ(ε)は、物体の長さの変化量(λ)/元の物体の長さ(l )で求めます。圧縮ひずみも同様に求められますが、この場合λがマイナスになるため、ひずみも負の値になります。
横ひずみ(ε′)は、物体の直径の変化量(δ)/元の物体の直径(d)で求めます。ポアソン比(ν)は、-1×横ひずみε′/縦ひずみεで求めることができ、その数値は材料が持つ固有の定数となり、材料の特性を示します。
ε=λ/l
ε′=δ/d
ν=-ε′/ε
4.ポアソン比の数値の意味合い
物体を引っ張ったり圧縮したりすると、形状が大きく変化しても体積が一定である材質のポアソン比は0.5になります。例えば、ゴム系の材料のポアソン比は0.46~0.49で、理論上の上限となる0.5とかなり近くなります。
ポアソン比の理論的な範囲:-1≦ν≦0.5
逆に、外圧をかけると体積の変化が大きくなる材質のポアソン比は小さくなり、ダイヤモンドのポアソン比は0.1、コンクリートは0.2、コルクはほぼ0になります。機械設計でよく使われる金属系のポアソン比は0.3前後で、鋳鉄は0.27、鋼材・鋼板は0.3、アルミニウムは0.33、銅は0.34となり、樹脂系のポアソン比は0.35前後です。
ちなみに、形状の変化のしやすさはヤング率(縦弾性係数)が関わってきます。硬い材質ほどヤング係数が大きくなり、柔らかい材質は逆に低くなります。ポアソン比νとヤング率(E)から、横弾性係数(G)を求めることができます。
G=E×1/2(1+ν)
5.ポアソン比の記号や単位
ポアソン比は縦ひずみと横ひずみとの比率を表すため、単位はありません。記号はギリシャ文字のν(ニュー)で表します。
ポアソン比を求めるのに必要なひずみの記号はε(イプシロン)で、縦ひずみを求めるのに必要な物体の変化量の記号λ(ラムダ)、横ひずみを求めるのに必要な物体の変化量の記号はδ(デルタ)です。ポアソン比の逆数をポアソン数といい、mで表されます。
m=1/ν
6.活用事例と注意点
ポアソン比は、CAEにおける構造計算や材料の強度計算などに使われます。機械設計の実務では材料特性値の1つとして入力する場合が多く、鉄鋼材料は0.30、樹脂は0.35のポアソン比が採用されています。
縦弾性係数や横弾性係数と同じく、ポアソン比もCAE解析に不可欠の材料特性値です。実務上では、「外力に対する部品の変形状態をコンピューターで計算するときの単なる係数」との理解で問題ありません。
少し捕捉すると、前述した横弾性係数を求めるG=E×1/2(1+ν)の公式は、材料が等方性弾性体であるという条件下で成立するものです。例えば鋼材は、強度や弾性係数が引っ張る方向に依存しない等方性弾性体です。一方、木材は繊維方向の引張強度は高いですが、繊維に直角する方向の引張強度は高くありません。
このように引っ張る方向に依存する異方性材料では、公式から正確なポアソン比を求めることはできません。アルミダイカスト(ADC12)や鋳鉄(FC200)も異方性材料、もしくはそれに相当する材料となります。異方性材料の場合公式は使わず、縦弾性係数、横弾性係数、ポアソン比をそれぞれ定義する必要があります。
7.まとめ
ポアソン比は材料により決まっているのであえて計算して求める必要はなく、シミュレーションのために必要な係数の1つとの理解に留めていても、機械設計の実務において大きな問題は生じないでしょう。しかし、ひずみや応力などの材料力学の理解を深めることなく、材料の特性を活かした革新的な材料や構造物の開発はできません。ポアソン比も単なる設計上の数値だけでなく、ものづくりに関わり肌で感じることで理解を深めることが設計者に求められているのかもしれません。