【連載】SDGsの達成に貢献する「Sumika Sustainable Solutions」と、自動車周りの部品で使用される「高純度アルミナ」とは――住友化学株式会社

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写真左から、住友化学株式会社 無機材料事業部 高純度アルミナ部 渡邊 尚氏、同部 事業企画・開発チームリーダー 真木 一氏


GREEN×GLOBE Partners (GGP) は、三井住友フィナンシャルグループが運営する環境・社会課題解決のためのコミュニティです。環境・社会課題解決の「意識」と「機会」を流通させることを目的として活動するGGPとの連携企画として、GGPパートナー各社へのインタビューを通して、サステナブルな取り組みを広く情報発信いたします。

第3回は、住友化学株式会社の持続可能な社会の実現に向けた取り組みである、「Sumika Sustainable Solutions(スミカ・サステナブル・ソリューション)」について、同社レスポンシブルケア部担当部長の藤田 正行氏に概要をご紹介いただきます。

そして、同制度の具体的な認定事例として「高純度アルミナ」を取り上げ、同社無機材料事業部 高純度アルミナ部長 渡邊 尚氏と同部 事業企画・開発チームリーダー 真木 一氏に、高純度アルミナの紹介、素材としてどのような製品に利用されているのか、今後の展望などを伺います。(執筆:後藤銀河 写真・資料提供:住友化学株式会社)

SSSの事務局として活動を推進する、同社レスポンシブルケア部 担当部長の藤田氏

SDGsへの貢献と早期社内普及を目指し、2016年度から社内認定制度をスタート

[藤田氏]住友化学グループとして、2016年から温暖化対策、環境負荷低減などに貢献する製品・技術を自社で認定する制度の運用を開始しています。ちょうど2015年に開催された国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)で採択された「パリ協定」が発効したタイミングです。当時はまだ、SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)という言葉もほとんどの人が知らない状況でしたが、SDGsを社内に普及させつつ、うまくビジネスと結びつけようということで、このSumika Sustainable Solutions(トリプルエスと呼称、以下、SSS)が始まりました。

SSSは住友化学グループ全体の取り組みと位置付けて、SDGsの達成に取り組んでいる。 資料提供:住友化学株式会社

[藤田氏]SSSは

1、「事業を通じたSustainableな社会の実現への積極的な貢献」
2、「Sustainabilityへの貢献の『見える化』による社員の意識向上」
3、「Sustainabilityを軸にした将来の成長機会を、投資家をはじめ社会に向けて積極的に情報発信」

これら3つを大きな目的として設定しています。

SSSへの認定は、私たちレスポンシブルケア部が事務局となり、各事業部門や国内外のグループ会社から申請された技術や製品を確認し、認定委員会での審議、外部の有識者による検証を行います。認定の審査においては、「気候変動対応」「環境負荷低減」「資源有効活用」「その他、サステナブルな社会の構築に貢献するもの」という4つの分野を設け、それぞれ認定要件を設定し、SDGsの17の目標との関係を明確にしながら進めています。2022年9月時点では、66の製品・技術が認定を受けています。

弊社はBtoBが主軸の企業で、以前は社員からも「自分たちが作った製品が社会でどのように使われているのか、役に立っているのか分からない」という声が挙がっていたのですが、今では各事業部門や工場、グループ会社の社員たちから、自主的に多くの申請、問い合わせがくるようになり、社内のSDGsに対する意識の向上を実感しています。

また、当社ではこれら認定製品の売上収益をKPIとして位置付け、進捗をモニタリングしています。具体的には、認定製品の売上高は、活動開始当初2,800億円程度でしたが、2021年末に倍増の5,600億円を目標に取り組み、6,200億円の売上を達成しました。今後の目標は、2030年度までに現在のさらに倍である、1兆2,000億円の売上を目指すという、高い目標値を掲げています。

今後は、SSSをブランド化し認定製品に付加価値をつけていくこと、SDGsに貢献できるSSS認定技術・製品を多くのお客様に活用いただくこと、そして、新しい用途に向けた更なる認定製品を社内で見出していくことに取り組んでいきます。

今回は、SSSの認定製品の一つである、「高純度アルミナ」をご紹介します。
高純度アルミナはSDGsゴール7番、12番、13番に貢献する製品として、SSSの認定を受けています。

SSS認定製品「高純度アルミナ」とは

[渡邊氏]まず初めに、今回ご紹介するアルミナとは「酸化アルミニウム」の呼称です。酸化アルミニウムは機械的強度や耐熱性に優れ、化学的にも安定した素材であることから、私たちの身の回りにある多くのものに使われています。

酸化アルミニウムの特長。 資料提供:住友化学株式会社

[渡邊氏]原料となる水酸化アルミニウムはボーキサイトから抽出され、これを焼成して得られたアルミナを電解精錬することで金属アルミニウムになります。アルミナの用途はこの金属アルミニウム向けが大半ですが、弊社が扱っているアルミナはそれとは異なる、純度が99%以上のケミカル用途に特化したものです。特に「高純度アルミナ」は、アルミナの中でも純度99.99%以上のものを指し、LED基板、半導体製造装置部品、リチウムイオン二次電池、高級時計、電子部品などに使われています。

高純度アルミナは、金属アルミニウムとアルコールなどを原料に水酸化アルミニウムを合成したのち、高温での焼成、粉砕というプロセスを経て、粉末や顆粒状など用途に合わせた形状に加工して、製品化されています。つまり高純度アルミナは、酸化アルミニウムを一旦金属アルミニウムにした後で高純度化処理を加えたものを、再び酸化アルミニウムに戻しているのです。弊社ではこの高純度の金属アルミニウム事業も手掛けているので、原料として自社製品を利用できることが大きな強みです。

自動車は軽量化のためにアルミニウムを使用する部品も多いが、アルミナは粉末であり、その特性を活かしてさまざまな電子部品などに使われている。 資料提供:住友化学株式会社

[渡邊氏]このように製品化されている高純度アルミナですが、ここでは活用の具体例として、

・最新型の自動車で採用されている「LEDヘッドライト」
・自動車の排気ガスの清浄化に欠かせない「O2センサー/NOxセンサー」
・最新のEVなどに搭載されている「リチウムイオン二次電池」

をご紹介します。

高輝度LEDに使われるサファイア基板

[真木氏]自動車用として非常に明るく、長寿命という特徴があるLEDヘッドライトですが、中心となる高輝度LEDを構成する青色LEDのサファイア基板として、高純度アルミナが使用されています。

SSSの認定理由としては、従来の白熱球タイプの電球をLED化することで消費電力を大幅に削減できる点、そして、そのLED素子を製造するために高純度アルミナが不可欠だという点を評価いただきました。

青色LED素子の構成図。 資料提供:住友化学株式会社

[真木氏]サファイアと言えば、天然石は宝石としてよく知られていますが、実は酸化アルミニウムの結晶で、ブルーに見えるのは不純物が入っているためです。不純物を含まない高純度アルミナを原料とする人工サファイアはほぼ無色透明で、ダイヤモンドに次ぐほど硬度が高いことから、サファイアガラスとして腕時計の風防やスマートフォンの液晶保護ガラスに使用されています。また、絶縁性と熱伝導性の高さから、半導体基板にも使用されています。

高輝度LEDは、中心部にある青色LEDの光と、視感度の高い黄色に蛍光する蛍光体を組み合わせることで、非常に明るい白色光を得るというものです。青色LEDは窒化ガリウム(GaN)という半導体の膜をサファイア基板の土台の上に形成していますが、これはGaNの膜を成長させるために1000℃という高温に耐える必要があること、またGaNと格子定数が近いことから、サファイアが使われています。

従来、サファイアガラスは腕時計のガラス程度の大きさしかなかったのですが、研究を重ねて技術的なブレークスルーを実現し、半導体ウェハーと同サイズの直径数十センチのサファイア単結晶を製造する技術を確立しました。GaNと相性の良いサファイアを基板とすることで、高価なGaNの使用量を減らし、LEDの低価格化を実現したのです。

自動車用酸素センサーで高精度な制御を実現

[真木氏]次に、O2センサー/NOxセンサーについてご紹介します。

公害対策、環境保護の観点から、年々自動車の排気ガス規制は厳しくなっていて、今ではエンジンが吸い込む空気よりも排出される空気のほうが浄化されて綺麗、というレベルになりつつあります。ガソリンやディーゼルといった燃料を使うエンジンの低公害化のために不可欠な部品がO2センサー/NOxセンサーで、このセンサーの絶縁部材として、高純度アルミナが使用されています。

ガソリンエンジンは、空気とガソリンを混合して燃焼・爆発させて作動するものですが、この空気中の酸素とガソリンの混合比には、最も効率が高い割合、つまり最も燃費が良くなる「理論空燃比」があり、そこに近づくように電子制御されています。そのためにO2センサーが排気ガスに含まれる酸素の量を瞬時にセンシングしながら、ガソリンの噴射量を調整するようなフィードバック制御を行います。

O2センサーは、ジルコニウムの酸化物であるジルコニアに、酸化イットリウムを安定剤として添加した安定化ジルコニアを使っています。ジルコニアは高温でのイオン伝導性に優れた固体電解質であり、両面を電極加工して片側を大気に、もう一方を排気ガスに晒すと、酸素濃度の高い大気側から低い排気ガス側へと酸素イオン流が発生します。酸素が高濃度側の電極では還元反応が、低濃度側の電極では酸化反応が起き、電極間の酸素分圧に差によって起電力が生じるため、この電位差を測定することで、排気ガスの空燃比コントロールに適用できます。

具体的には、空気に対して燃料が多過ぎると酸素濃度が低いリッチ燃焼となり起電力が発生し、逆に燃料が少ないとリーン燃焼となって電極間の酸素勾配が低くなり、電位差はゼロになります。このリッチとリーンの中間が理論空燃比で、最も排気ガスがクリーンになる比率なので、この領域に入るようにO2センサーの出力電圧をモニターしながら燃料の噴射量を制御するという仕組みになっています。

排気ガスをクリーンにするためには、常に理論空燃比に近づけられるよう、非常に狭い領域で高精度に作動させる必要があります。そうした特性を実現するために、センサー素子は高純度アルミナとジルコニアの複雑な多層構造となっています。高純度アルミナは不純物が極めて少ないことから、多層構造の中での絶縁材料や、高温に保つためのセラミックヒーターを構成しています。弊社の高精度アルミナはこの市場で100%に近いシェアを占めております。

リチウムイオン充電池の安全性を高めるために

[真木氏]世界的に自動車のEV化が進む中で、急速に生産量が拡大しているリチウムイオン二次電池ですが、その構造の一部であるセパレータという部品にも高純度アルミナが使われています。

セパレータにおける高純度アルミナの使用イメージ。 資料提供:住友化学株式会社

[真木氏]リチウムイオン電池の正極と負極を分離するセパレータという部品には、何らかの理由でこのセパレータが破損すると正極と負極が短絡して、発熱するというリスクがあります。高い耐熱性と絶縁性がある高純度アルミナで電極やセパレータをコーティングすることで、セパレータのベースフィルムの破損による短絡のリスクを低減することができ、リチウムイオン電池の安全性向上に寄与しています。

弊社でSSS認定されたセパレータとしては、アラミド繊維でベースフィルムを保護する「ペルヴィオⓇ」がありますが、この「ペルヴィオⓇ」とは別に、高純度アルミナは他社が製造するセパレータ向けに供給され、エンドユーザーである電池メーカーにご活用いただくという狙いで製品化しています。

高純度アルミナの今後の展望

[渡邊氏]基本的な開発の方針は、さまざまなエンドユーザー向けに、粒子径が小さいものから大きいものまで、幅広くラインアップを揃えていくことになります。大きいほうがサファイアガラスの単結晶で、こちらはほぼ実現できたと考えており、今後はより粒子径の小さい高純度アルミナの実現が開発のポイントになります。

高純度アルミナの新グレード「NXAシリーズ」。 資料提供:住友化学株式会社

[渡邊氏]粒子径は小さくなるほど、製造が難しくなります。砂糖や小麦粉でも同じですが、粒子径が小さくなると外熱のエネルギーを受けやすくなり、粒子同士が固着したり、結合して大きくなったりし易くなります。弊社では高純度アルミナの微粉末化を長年追求し、ひとつの技術として完成させ、直径わずか100ナノメートルの、「NXA」という商品の開発に成功しました。電子部品の小型化、高密度化に伴って、高強度、高耐久のアルミナ粉末も微細化が求められてくると考えており、NXAはそうしたニーズに合う製品になっています。

一方、CO2の発生量、カーボンニュートラルという視点での課題もあります。SSSとして認定された高純度アルミナですが、製造プロセスでは、熱や電力等の消費によってCO2を生み出しています。住友化学は会社としてカーボンニュートラルの実現に大いに力を入れて取り組んでいますので、高純度アルミナを開発・製造・販売するわれわれも、SDGsの観点でこうした環境負荷を無くしていくよう、製造プロセスの合理化などに日々取り組んでいます。

社会環境問題の解決のために

[渡邊氏]今後、「持続可能な社会を構築していかなければならない」という課題の解決は、コンセンサスが取れた方向性だと言えます。そうした世界の中で、特に高機能なセラミックス材料が利用されるケースは、どんどん拡大していくと考えています。アルミナ自体、ファインセラミックスの中ではとても汎用的なものですし、広範囲な用途に適用できると思います。この領域に従事している若いエンジニアの方や、これから無機材料のプロフェッショナルを目指す学生の皆様には、既存の価値観や規則に捉われすぎず、大きな夢を持って研究に取り組んで欲しいです。例えば、今から数十年後の将来を思えば、宇宙開発において有用となる新しい材料開発をしよう!といった心意気で技術開発や勉強に取り組んでほしいと思います。

弊社も今後ますます高齢化が進むにあたり、一人一人のQOL(Quality Of Life:生活の質)を高めるために、これまで培った知見やメーカーとしての総合力を生かしつつ、人々のQOL向上に貢献できるような新しい材料を開発していきたいと思っています。

次回は、引き続き住友化学株式会社のSSS認定製品として、リチウムイオン充電池に使われているセパレータ「ペルヴィオⓇ」を紹介します。

取材協力

住友化学株式会社
事業を通じた貢献Sumika Sustainable Solutions(SSS)



ライタープロフィール
後藤 銀河
アメショーの銀河(♂)をこよなく愛すライター兼編集者。エンジニアのバックグラウンドを生かし、国内外のニュース記事を中心に誰が読んでもわかりやすい文章を書けるよう、日々奮闘中。


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