次世代車載光通信方式の実証研究で伝送実験に成功――シリコンフォトニクス素子を利用した車載光ネットワーク慶応義塾大学ら

慶應義塾大学は2024年9月20日、東京大学や大阪大学、古河電気工業などと共同で、高度自動運転に必要な高信頼、低伝送遅延の車載光ネットワーク「SiPhON（Silicon Photonics-based in-vehicle Optical Network）」の実証研究を行い、50Gb/sのデータ伝送に成功したと発表した。完全自動運転を支える高速車載光通信方式の実現につながると期待される。

高度自動運転を実現するには、搭載するカメラやセンサーなどの電子機器の増大に対応した、大容量で低遅延な車載ネットワークが不可欠になる。さらに車としての安全性を確保するには、耐環境性や電磁両立性性能、信頼性などの厳しい条件をクリアする必要がある。

研究グループでは、こうしたシステムを実現するために、シリコンフォトニクス素子を利用した100Gb/sの伝送容量を持つSiPhONを発案し、実証研究を進めている。

SiPhONは、中核機能を担うセントラルECU（Electrical Control Unit）のマスター装置にのみ半導体レーザーを配置し、車を区画ごとに統括するゾーンECUのゲートウェイ装置には、シリコンフォトニクス集積技術による変調器や受信器を配置した。その間を石英シングルモード光ファイバーで接続している。

マスター装置から送信された光は、各ゲートウェイ装置で透過、受信、あるいは変調して出力され、再びマスター装置に帰ってきて受信される。電気回路部では誤り訂正処理やリンク確立などに向けた制御信号やプロトコル、上位Layerとのインターフェースが実装される。

セントラルECUとゾーンECUは、イーサネットに対応したインターフェースを有し、ECU間の伝送容量を可変して、柔軟にトラフィック制御できる。SiPhONのシステム信頼性は高く、100Gb/sの容量で故障するまでの平均期間は50年以上になることを確認している。

今回、研究グループは車載ネットワークを模擬したデモンストレーションシステムを構築し、伝送実験を行った。マスター装置と4台のゲートウェイ装置間で2台の4Kカメラの映像信号（各10Gb/s）に加え、周辺監視レーダーとLiDARの低速データを同時に伝送し、低遅延でエラーフリー伝送ができることを確認した。4Kカメラで撮影された情報は、SiPhONを介して画像処理装置に伝送され、物体・交通標識を認識した結果がリアルタイムで表示された。

実証システムには、本研究で開発されたシリコンフォトニクス素子、光ファイバー／電源線一括配索ハーネスを搭載し、動作実証に成功した。

(a)シリコンフォトニクスMD光回路、(b)光モジュール、(c)光モジュールの拡大図、(d)10Gb/s光変調波形、電気受信波形

光ファイバー・電源線一括配索ハーネス（FASPULS）

研究グループは、完全自動運転車両への実装を目指し、より高速で信頼性が高く、拡張性も高いシステムの実現を目指すとしている。研究成果は2024年9月22日から26日までドイツ・フランクフルトで開催される「ECOC2024」で発表する。

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