イギリス、核融合炉材に適した耐熱鋼を製造し、建設コストを削減

イギリス原子力公社(UKAEA)が推進し、核融合炉に適した先進耐熱鋼の開発を目指しているNEURONE共同研究プロジェクトチームが、7トン電気アーク炉(EAF)を用いて低放射化フェライト系マルテンサイト(RAFM)鋼を実機レベルで製造することに成功した。

大規模化が可能な既存インフラ設備を活用した実験に成功したことで、これまで想定されていたRAFM製造技術と比べて、製造コストを1桁オーダーで劇的に削減できる可能性を実証したものだ。今後、650℃までの耐熱性能を持つ先進RAFM鋼の開発に向けて、鍛造や圧延などの加工熱処理技術の研究と、中性子照射に対する材料劣化や低放射化性能に関する研究を加速できると期待されている。

NEURONE共同研究は、UKAEAの材料部門とイギリスの学術および産業分野の10機関、中性子照射施設を提供できる国際的な機関と連携した、総額1200万ポンド(約23億1500万円)のプロジェクトだ。従来よりも高い耐熱性を備えた核融合炉構造用鋼の開発を目的として、製造技術および中性子照射に対する材料劣化や低放射化性能に関する広汎な試験を実施するために設立された。核融合炉の能力を最大化し、核融合発電の総合的コスト効率を改善することが期待されている。

プロジェクトチームは、「核融合エネルギー活用における最大の課題の1つは、核融合炉発電に必要な過酷な温度、最低でも650℃まで耐える耐熱性および高い耐中性子照射性能を持つ構造材料の開発であり、核融合炉発電の信頼性を確保する上で極めて重要だ」と語る。これまでに、50以上のRAFMについて重量100~400gの実験室レベルの小さなインゴット(鋳塊)を製造して分析し、性能に関するデータを収集しており、EAFを利用した高純度化技術と加工熱処理技術を活用し、大規模化可能なインフラ設備における製造技術を確立することが、核融合炉建設のコストを削減し、核融合炉発電のコスト効率を高める基礎になると、同チームは説明する。

NEURONEプロジェクトの初年度における重要な研究課題の1つとして、ミドルズブラにある材料加工研究所の7トン EAFを用いて、核融合炉用のRAFM鋼を実機レベルで製造する取組みを行った。その結果、5.5トンのビレット(柱状の鋼)を鋳造することに成功し、従来想定されてきたRAFM製造技術と比べて製造コストを最大10倍も削減する可能性を実証した。

「RAFM鋼をこのレベルで製造できたことは、核融合研究に対する画期的なできごとであり、原子力や石油化学など、高強度および耐熱性構造用鋼を必要とする周辺産業にも恩恵をもたらす」と同チームは語る。今後、EU核融合炉用規準材料として開発中のRAFM鋼であるEURIFER97についても、同様に数トンレベルで実機製造することを計画している。今後イギリスの鉄鋼メーカーが、鍛造や圧延などの加工熱処理に関して最適なプロセス条件を検討するために、NEURONEプロジェクトに参加することも期待されると、同チームは説明する。

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