- 2025-2-28
- 化学・素材系, 技術ニュース
- J-PARCセンター, Ti-Al-Cr, アルミニウム, チェコ科学アカデミー, チタン, チタン-アルミニウム基合金, チタン合金, 形状記憶合金, 日本原子力研究開発機構, 東北大学, 東北大学学際科学フロンティア研究所, 研究, 超弾性, 超弾性特性, 軽量形状記憶合金
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東北大学学際科学フロンティア研究所の許勝助教らの研究グループは2025年2月27日、日本原子力研究開発機構、J-PARCセンター、チェコ科学アカデミーなどと共同で、軽量でありながら高い強度を持つ新規形状記憶合金を開発したと発表した。開発した合金は、-269℃の極低温から+127℃の高温までの広い温度範囲で優れた超弾性特性を有する。
研究グループは今回、軽量な元素であるチタンとアルミニウムを主成分とした上でクロムを少量添加した軽量な形状記憶合金(Ti-Al-Cr)を開発した。開発したチタン-アルミニウム基合金は、室温での比重が4.36とNi-Ti実用合金の約7割と低く、800MPa以上の高い強度を持ちながら、超弾性変形による最大回復ひずみが7%を超える。
この大きな形状回復機能は、ヘリウムの沸点である-269℃から+127℃までの広い温度範囲で現れ、超弾性動作温度幅は約400℃をカバーする。これにより、地球上の温度範囲に加え、月や火星の温度範囲で利用できる。
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開発されたTi-Al-Cr合金の各温度での超弾性変形応力―ひずみ曲線。
-269℃から+127℃までの非常に広い温度範囲において、この合金に応力を加えて数%の形状のひずみを生じさせても、応力を解放すると形状が回復する。地球、火星、および月の表面温度の変化範囲も上部に表示。
開発した合金は、チタン合金のため、高い耐食性も備えていると考えられ、宇宙開発への応用が期待される。また、極低温でも超弾性特性が発揮されるため、液体水素温度(-253℃)の環境でも利用でき、シール材などへの応用を通じて水素社会の実現への貢献が期待される。
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超弾性動作温度幅と比重のマップにおいて、開発されたTi-Al-Cr合金と従来の形状記憶合金との比較。この新規合金はより軽量で、より広い温度範囲で動作する。
ニッケル-チタン(Ni-Ti)合金をはじめとする形状記憶合金は、医療デバイスや制震構造などの分野で実用化されているが、航空および宇宙産業や水素社会などの分野では、軽量でありながら激しい温度変化に対応できる形状記憶合金の開発が求められている。
また、弾性率と生体安全性の観点からは、骨プレートなどの超弾性特性を生かした生体材料へ応用が期待される。比較的安価な元素で構成され、熱間加工性に優れ、加工や熱処理による材料組織制御にも対応するため、将来的には工業的な量産性も期待できるという。