北海道大学は2022年7月29日、同大低温科学研究所とSCREENホールディングスの共同研究で、半導体洗浄時に起こるナノ構造物の倒壊挙動の観察に成功し、そのメカニズムを解明したと発表した。半導体洗浄時のナノ構造物の倒壊は、液体の表面張力により引き起こされることが分かっているが、今回、液体によるナノ構造物の倒壊挙動を初めて断面方向から観察した。
研究グループでは、集積イオンビーム装置を使って半導体表面に加工したナノ構造物を切り出し、洗浄工程で主に使用される2-プロパノール(IPA)とともに液体観察用試料ホルダー内に封入する手法を開発。これによって、透過型電子顕微鏡(TEM)によるナノ構造物の倒壊挙動を観察することに成功した。
ナノ構造物(シリコンナノピラー)と IPA を試料ホルダーに封入した後、TEM で観察しながら IPA を蒸発させ、ナノピラーが倒壊する様子を観察。その結果、ナノ構造物は IPA がメニスカスを形成した直後から変位し始め、IPA の気液界面の変動にともなってナノ構造物が変位することが明らかになった。これによって、ナノ構造物の倒壊は液体の表面張力により引き起こされるという従来のモデルの妥当性が裏付けられた。また、ナノピラーの倒壊は、ナノピラー間に残る水によってナノピラー同士が付着し、さらに乾燥時に先端部に残る液だまりがナノピラー同士を接着させるという2段階のプロセスで起こることも明らかになった。
近年、半導体の微細化のペースが鈍化し、ムーアの法則との乖離(かいり)が大きくなっている。微細化のペースが鈍化している理由の一つに、半導体洗浄工程におけるナノ構造物の倒壊現象が指摘されている。半導体の洗浄工程では液体を使用するため、洗浄後は必ずウェハーを乾燥する必要があるが、この乾燥工程で半導体のナノ構造物が倒壊する。
ナノ構造物が倒壊する原因は液体の表面張力で、ナノ構造物に付着した液体が乾燥する際に、表面張力によってナノ構造物が影響を受ける。これまで製造現場では、洗浄液を低表面張力の液体であるIPAに置換してからウェハーを乾燥することで倒壊を防いできた。しかし、7nmや5nm といったシングルナノオーダーの製造プロセスでは、IPAを使った洗浄でも倒壊を防ぐのが難しくなってきており、表面張力が小さい液体で洗浄/乾燥する方法には限界が近づいていた。
一方、ナノ構造物の倒壊挙動を直接観察した例は少なく、メカニズムには不明な点も多い。
研究グループは、今回の観察手法を使えば、従来見ることができなかった複雑なナノ構造物を液中で観察できるようになり、半導体製造プロセスの課題の解決につながると期待を寄せている。
今回の研究成果は、2022年6月22日公開のACS Applied Nano Materials誌に掲載された。