- 2021-4-19
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卓越した安全性があり、低コストでコバルトを含まない大衆市場向け電気自動車(EV)用の熱調節型リン酸鉄リチウム(LiFePO4:LFP)電池が開発された。10分間の充電で250マイル(約402km)を走行可能だ。この研究は米ペンシルベニア州立大学によるもので、その詳細は2021年1月18日付で『Nature Energy』に掲載された。
EV用電池の開発初期にはカソードにLFPが使用されていたが、現在はニッケルを多く含む電池が台頭してきている。しかし、LFP電池は卓越した安全性を持ち、低コストでコバルトフリーであることから放棄することはできない。
研究チームは、今回、10分の充電で約400km走行可能な熱調節型LFP電池を開発した。EVを充電できるようになる前に充電切れになってしまうのではないかと恐怖を感じることを「走行距離不安症」と呼ぶが、この電池により「ガス欠」ならぬ「電欠」への不安を解消できるという。
今回の研究で開発された電池の長寿命と急速充電の鍵は、充放電時に華氏140度(約60℃)まで急速加熱し、その後バッテリーが動作していない時には冷却するという性能にあるということが報告された。
新しい電池には、同大学の電気化学エンジンセンターで開発された自己発熱方式を用いている。先行研究で開発された自己発熱型電池では、薄いニッケル箔の一端を負極端子に取り付け、もう一端をセルの外側まで伸ばして、3番目の端子を作る。電子が流れると、抵抗加熱によってニッケル箔が急速に加熱され、電池内部が温められる。電池の内部温度が華氏140度(約60℃)になると、スイッチが開き、急速充電あるいは急速放電ができるようになる。
研究チームは既存の技術と革新的なアプローチを用いて新しい電池を作製し、この自己発熱方式を使用すると電池のカソードとアノードに低コストの材料を使用でき、安全で低電圧の電解質を使用できると提案している。今回の研究で開発された電池のカソードには熱的に安定したLFPを使用し、コバルトのような高価で希少な材料は一切含まれていない。アノードは、安全で軽量かつ安価な材料であり、粒子が非常に大きい黒鉛(グラファイト)でできている。
また、アノードにリチウムが不均一に堆積するとバッテリー内部で短絡の原因となる危険なスパイクを引き起こす可能性があるが、自己発熱することでその心配がなくなるという。
研究論文の責任著者であるChao-Yang Wang教授は、この電池では重量、体積、コストを削減することができたと語っている。燃焼機関(エンジン)を使う自動車と同程度のコストで、手頃な価格の大衆市場向けEV用電池となっている。研究チームによると、この電池で寿命が来るまでに200万マイル(約322万km)走行可能だという。
電池は小型化しているが加熱すると大量の電力を出力でき、この電池を搭載したEVの0-60マイル/h加速は3秒で、ポルシェのような運転ができるという。
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