
東京大学は2025年3月13日、慶應義塾大学などとの研究グループが、光ポンププローブ法という手法を用いて磁化のノイズを計測する新たな手法を開発したと発表した。これによってノイズを定式化し、ノイズ強度に「磁化の量子化」の情報が含まれていることを明らかにした。研究グループは、磁石中の電子スピンを用いた量子情報デバイスの開発への貢献が期待できる成果だとしている。
今回の研究では、光を照射して非平衡に励起(ポンプ)し、その後の時間変化を別の光で観測(プローブ)する光ポンププローブ法を使って、磁化のショットノイズを測定する新手法を開発した。具体的には磁場下の平衡状態にある強磁性体に対して、ポンプ光を照射して磁化を駆動。すると、磁化はしばらくの間、磁場の周りで回転し、徐々に平衡状態に向かって緩和していく。このときに観測される磁化の平均値まわりの揺らぎを理論的に定式化したところ、揺らぎの強度(ノイズ強度)に磁化の量子化の情報が含まれることが明らかになった。
一般に磁化の量子化の度合いは系によって異なると予測されているが、研究結果は、その大きさをショットノイズ測定で決定できることを意味する。また、今後の非同期サンプリング実験による磁化の量子化観測の実証も期待できる。
物理量の測定では意図しないノイズが混入することがあり、一般的にノイズは邪魔な存在とされるが、電流のショットノイズのように、重要な情報が含まれていることがある。電流のショットノイズには電流を運んでいる粒子の電荷の情報が含まれており、実際に分数量子ホール状態や超伝導における有効電荷の決定などに用いられる。
最近は、磁石にマイクロ波を当てて駆動させたときに電子のスピンが近接する金属に移動し電流に変換される現象を利用して、電流のノイズを測定し、磁石の磁化の量子化を観測するという手法が提案されているが、実験が困難なため、これまで行われてこなかった。
一方、光技術の分野では、非同期サンプリング技術を用いて、ポンプ光で駆動した磁化が元に戻っていく(緩和する)様子を短時間で多数回調べることが可能になった。これによって、磁化のショットノイズも観察できるようになると期待されている。
現在、磁石に含まれる電子スピンを用いて量子情報を保持したり操作したりする方法が研究されており、研究グループは、今回の成果は磁石中の電子スピンを用いた量子情報デバイスの開発に貢献すると期待を寄せている。さらに、光ポンププローブ法に用いられるレーザー技術の新たな応用先としても有望だとしている。
関連情報
ノイズこそが信号だった!磁石の量子化を測定する新提案 ―光ポンププローブ法を用いた磁化ノイズ測定で量子化を直接観測 | 物性研究所